イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が始まってから半年超。ハマスの奇襲を受けた際に世界からイスラエルに寄せられた連帯の声は、パレスチナ自治区ガザでの民間人犠牲者が増えるにつれて小さくなった。孤立を深めるイスラエルの国内では、ガザへの侵攻に対する批判を抑え込む動きも見られる。交流サイト(SNS)で戦闘中止を訴えて逮捕されたイスラエルの男性に、オンラインで話を聞いた。(福田真悟)

◆「この狂気を止めるんだ」 そしてクビになった

 「これは明らかな『魔女狩り』だ」。エルサレム在住の公立高校教師メイール・バルヒンさん(62)は2023年10月以降、自らを襲った出来事を、そう振り返った。  イスラエル軍のガザ空爆が始まった直後。犠牲になった子どもらの写真とともに「この狂気を止めるんだ」とSNSに投稿したところ、内容を問題視した教育当局に呼び出され、解雇された。

本紙のオンライン取材に応じるバルヒンさん

 翌11月には、反逆罪の疑いなどで警察に逮捕され、独房に4日間拘束された。長年、SNSで自国によるパレスチナの軍事占領を批判してきたが「こんな事態は初めてだった」。  起訴はされず、後に解雇は無効との司法判断が下った。「SNSへの投稿だけで立件できるなどとは当局も思っていなかったはず。国を批判すればこういう目に遭うと周りに知らせるのが狙いでは」と語る。

◆復職したが生徒から「家族を殺す」と言われ

 実際、多くの教師は「あなたの思いに賛同する」とのメッセージを寄せつつ、公には沈黙を貫いた。「職を失うのを恐れ、声を上げられなかったのだろう」

「逮捕は見せしめ」と語るメイール・バルヒンさん(3月下旬撮影、本人提供)

 今年1月に復職した際、バルヒンさんは投稿に反発する生徒らに囲まれた。「後ろからたたかれ『家族を殺すぞ』などと罵声を浴びせられた」。危険を避けるため、授業はリモートにせざるを得なかった。  激しい反発の背景には、軍への批判をタブー視する風潮もあると考える。「建国以来、戦争状態が続いている。兵役があるイスラエルでは、軍の存在は国民にとって大事なアイデンティティー(存在証明)。国防を担う英雄との教育が浸透している」  イスラエル国内ではガザの人道状況を懸念する声が少ない。一因に「国内の主要メディアが現地の惨状を全く伝えないこと」を挙げる。バルヒンさんは、再び弾圧される恐れはあるものの、今後も民間人の被害などをSNSで発信するつもりだ。「平和が訪れるよう、希望を捨てずに戦争の現実を多くの人に伝えたい」   ◇

◆ガザ侵攻批判への猛バッシング…背景に何が

 ガザ侵攻への批判を抑え込む動きがイスラエル国内に見られる背景には、ハマスによる多数の市民の殺害に対する怒りや恐怖感が引き起こした国民感情のかつてない「過激化」があるようだ。  元イスラエル兵で埼玉県在住のダニー・ネフセタイさん(67)=埼玉県皆野町=は昨年、自らのSNSでガザ侵攻を批判。直後にヘブライ語で「ナチスに密告したユダヤ人と同じだ」などと、これまでにない激しい非難が寄せられた。

(写真と記事本文は関係ありません)

 「紛争解決には『対話しかない』と言っていた知人の中に『武力行使も仕方ない』と考えを変えた人もいる。約1200人が亡くなった(ハマスの奇襲の)衝撃がそれだけ大きかった」  最近は、イスラエル国内でも政府を批判するデモが頻発。だが、先月末のデモに参加したバルヒンさんは「あくまでもネタニヤフ首相個人の批判が目的の人がほとんど。ガザ侵攻そのものに反対する声は少ない」と話す。  ガザでの民間人のさらなる被害拡大への歯止めに鍵を握るのが、イスラエル最大の支援国、米国の動向。バルヒンさんは「バイデン大統領は再選のため、侵攻に批判的な世論を考慮せざるを得ないだろう」との見方を示した。 

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