タイの憲法裁判所は14日、セター首相に対し、即時解任を命じる判決を言い渡した。かつて実刑判決を受けた人物を閣僚に任命したことが憲法が定める首相の道徳規範に反すると判断した。今後、国会下院が次期首相を選ぶが、司法による度重なる政治的判断で混乱が深まっている。

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 タイでは、国王を頂点に軍や財閥などが支配層を形成。その既得権益を守ろうとする親軍保守派と、庶民層の支持を集めるタクシン元首相派が長く対立してきた。

 近年さらに第3の勢力として、前進党などの革新系が勢力を伸ばす中、親軍保守派とタクシン派は2023年8月に連立合意。元実業家でタクシン派のセター氏が首相に就いた。同時に15年にわたり国外逃亡していたタクシン氏も帰国を果たし、両派の間で政治取引があったとみられていた。

 セター氏は今年4月の内閣改造で、タクシン氏の元顧問弁護士だったピチット氏を閣僚に指名。ピチット氏はかつて裁判官に賄賂を渡そうとして有罪判決を受けた人物で、親軍保守派系の上院議員40人が憲法裁にセター氏の解任を請求していた。

 タクシン派と保守派の亀裂が再び表面化する中で、憲法裁が両者の連立による首相を解任したことで、これまでの連立の維持は困難になる可能性がある。下院が後継の首相指名を行うまでは当面、プンタン副首相兼商務相が暫定政権を率いる。

 憲法裁は過去にも繰り返し、政権の命運を左右する判決を言い渡し、識者から「司法クーデター」と評されてきた。憲法裁の裁判官は、軍政時代に任命された上院により選任されており、「保守派の防波堤」(AP通信)とみられてきた。ロイター通信によると、憲法裁が首相解任を言い渡すのは過去16年間で4回目。今月7日には、下院第1党の野党・前進党に対して解散を命じたばかりだった。(バンコク=武石英史郎)

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