【バンコク=藤川大樹、北京=石井宏樹】南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島付近で、領有権を争うフィリピンと中国の対立が激化している。中国政府は、フィリピンと米国の軍事協力をけん制するとともに、ベトナムの取り込みを図っている。

◆フィリピン「中国海警局の艦船に衝突された」

 フィリピン政府は19日、南シナ海のサビナ礁付近で、フィリピン沿岸警備隊の巡視船が中国海警局の艦船に衝突されたと発表した。  巡視船は軍の拠点に物資を運んでいたところ、同日未明、中国海警局の艦船と衝突。約15分後に別の巡視船も中国船から2回にわたり衝突され、いずれも損傷したという。フィリピン側は「(中国側の)危険な操船が衝突を招いた」と批判している。  一方、中国中央テレビによると、中国海警局の報道官は同日、「フィリピン船は中国の度重なる警告を無視し、非専門的で危険なやり方で、正当に執行業務に当たっていた中国船に故意に衝突して摩擦を発生させた。責任は完全にフィリピン側にある」と非難した。

◆アメリカのミサイル配備に対し中国・王毅外相が「警告」

 フィリピンのマナロ外相はまた、16日に開かれたフィリピン外国特派員協会の会合で、中国の王毅(おうき)政治局員兼外相から7月、米国の中距離ミサイル発射装置をフィリピンに配備することは「地域を不安定にする」と、警告を受けたと明らかにした。

中国・王毅政治局員兼外相

 現地からの情報によれば、米軍は4月、フィリピン軍との合同軍事演習で、巡航ミサイル「トマホーク」や迎撃ミサイル「SM6」を搭載できる地上配備型の中距離ミサイル発射装置「タイフォン」をフィリピンのルソン島北部に展開。中距離ミサイル発射装置がインド太平洋地域に配備されるのは初めてだった。トマホークの射程は1500キロメートル以上で、中国大陸の一部が射程圏内に収まる。  マナロ氏によれば、王氏は会談で「非常に劇的な反応」を示し、発射装置の配備について「地域の緊張をあおり、軍拡競争につながる恐れがある」と警告。マナロ氏は「自国領土への配備は中国にとって脅威ではなく、地域の不安定化も招かない」と反論したという。  発射装置は現在もフィリピン国内に配備されているが、早ければ来月にも撤去される見通し。米軍関係者は、配備の狙いについて「フィリピン軍の近代戦システムに関する知識を向上させるため」と語っていた。

◆習近平氏、ベトナムのトップと会談

 中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席は19日、中国を訪問しているベトナム最高指導者のトー・ラム共産党書記長と北京の人民大会堂で会談した。ラム氏は7月に書記長在職中に死去したグエン・フー・チョン氏の後任で、初の外国訪問先に中国を選んだ。  両国は南シナ海の領有権問題であつれきを深めており、ベトナムは日米と安全保障面での関係強化も同時に進めている。中国には今回の会談を通じて、ベトナムの日米接近をけん制する狙いがありそうだ。  中国中央テレビによると、習氏は、共産党が一党支配する同じ社会主義国として「伝統的な友情を維持し、党の指導と社会主義制度を堅持しなければならない」と述べた。ラム氏は「中国はベトナムにとって対外政策の戦略的選択であり、最優先の存在だ」と強調した。 

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