【シカゴ(イリノイ州)=鈴木龍司】米民主党大会が始まった19日、中西部イリノイ州シカゴの会場周辺では、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの軍事行動や、イスラエルを支援する民主党政権に抗議する大規模デモが開かれた。大統領選に向けて、ハリス副大統領が支持拡大を目指す若者らに不満が高まっており、ガザ情勢が陣営のアキレス腱(けん)となる可能性がある。

19日、イリノイ州シカゴで、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの軍事行動を支援する米民主党政権に抗議する若者ら=鈴木龍司撮影

◆「停戦交渉を進めねば票は入れない」

 「パレスチナに自由を」「ハリスは人殺しに加担している」。会場には若者や女性、アラブ系を中心に数千人の市民が詰めかけ、抗議の声を上げた。  ガザでの死者は子どもや女性を含めて4万人を超え、イスラエルに軍事支援を続けるバイデン政権への批判は根強い。  バイデン大統領の後継者ハリス氏について、教員を目指している男性(24)は「(停戦交渉を)前に進めれば別だが、今は票を入れるつもりはない」と突き放す。民主党を支持してきた大学生のマディー・ヤングさん(21)は「ガザで多くの人が犠牲になっている。(民主党政権は)戦争を止めるために何かできるはずなのに、シカゴでお祝いのイベント(党大会)を開いていることが悲しい」と漏らした。

◆「ベトナム泥沼化」の苦い過去

 民主党にとって、シカゴでの党大会は苦い記憶として刻まれている。1968年の党大会開催時にはベトナム反戦デモの参加者と警官隊が衝突し、多数の負傷者と逮捕者を出した。  戦争の泥沼化を招いたとして、ジョンソン大統領は退陣を余儀なくされ、代わって本選を戦ったハンフリー副大統領は共和党のニクソン氏に敗れた。ガザ情勢が支持率低下の一因となったバイデン氏との類似点が指摘されている。

15日、米東部メリーランド州ラーゴで開かれた集会でバイデン大統領とともに登壇するハリス副大統領(中央)=浅井俊典撮影

 一方でハリス氏は、イスラエルに対して強硬な姿勢を取るとの見方もある。人工妊娠中絶の権利擁護をはじめ、人権問題の訴えに力を注ぎ、若者や女性らの支持獲得を狙っているためだ。7月25日にイスラエルのネタニヤフ首相と会談した際、記者団に「私は黙っていない。戦争を終わらせる時が来た」と宣言した。

◆「私は黙っていない」は「口だけだ」

 ただ、停戦合意には障害も多い。19日のデモには「ハリスは口だけでパレスチナを救っていない」とのプラカードも掲げられた。  外交問題を専門にするシンクタンクのシカゴ・グローバル評議会のディナ・スメルツ氏は「若者や非白人の有権者にとってはガザの問題が重要なテーマの一つだ」と説明。共和党のトランプ前大統領との争いで支持率を伸ばしているハリス氏について「今は『ハネムーン期』で有権者に熱狂的な感情があるが、今後、具体的にどう対処するかにかかっている」と指摘した。 

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