【ニューデリー=岩城聡】インドのモディ首相は23日、ウクライナを訪れてゼレンスキー大統領と会談する。7月にロシアを訪問したばかりで、紛争終結を促すために対話の仲介役を名乗り出る可能性がある。ロシア寄りとの国際批判をかわす狙いも垣間見える。
「ウクライナ紛争の平和的解決に関する見解を共有する機会を楽しみにしている」。モディ氏は21日、出発に際して声明を発表した。地元報道によると、紛争解決を促すメッセージをウクライナ側に伝える可能性が高いという。
1992年にウクライナと外交関係を樹立して以来、同国をインド首相が訪れるのは初めてとなる。モディ氏がウクライナ訪問に踏み切った背景には、インドが外交的に親ロシアに傾いているとの批判をかわす狙いがある。
モディ氏は7月、3期目の首相就任後初めての訪問国としてロシアを選んだ。プーチン大統領との会談で固く抱き合う映像が世界に流れた。当時、ロシアがウクライナ首都キーウの小児病院などをミサイルで攻撃した直後だったことから、国際社会から大きな批判を浴びた。
特にゼレンスキー氏の言葉は辛辣だった。同氏はX(旧ツイッター)に「世界最大の民主国家の指導者が、血塗られた犯罪者と抱擁する様子を見て、非常に失望した」と投稿した。
米国も強烈な不快感を示した。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「信頼できるパートナーとして、ロシアに依存するのは得策ではない」と警告した。
対話を呼びかけるモディ外交が紛争解決の仲介役として機能するかは疑問が残る。
ウィルソンセンター南アジア研究所所長のマイケル・クーゲルマン氏は「ウクライナとロシアの間でバランスを取ることは困難だ」と指摘する。インドが武器やエネルギーの分野でロシアと緊密な協力関係にあることを要因に挙げる。
ストックホルム国際平和研究所によると、インドにとってロシアは最大の武器供給国だ。2019〜23年のロシアからの調達比率は36%に達した。ウクライナ侵略でロシアが自国への武器供給を優先したため、侵略前と比べれば比率は低下したが依存度はなお高い。
原油もロシア産の調達を増やしてきた。ロイター通信によると、インドは7月に中国を抜き世界最大のロシア産原油の輸入国となった。インドの原油輸入に占めるロシア産の割合は36%と最も高い。
ロシア産原油は西側諸国の制裁や購入抑制の影響をうけ中東産などに比べて割安になっており、インドが積極的に輸入してきた。
インドにとってはロシアが孤立を深め、自国と国境紛争を抱える中国に接近するシナリオは避けたい。22年2月からのウクライナ侵略を巡っても、インドは国連総会のロシア非難決議などを棄権した。23年9月、インドが議長国を務めた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも、ロシアへの批判を抑えて首脳宣言の採択を優先した経緯がある。
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