アメリカ大統領選で、民主党のハリス副大統領は22日、党大会での大統領候補の指名受諾演説で、対応力を疑問視されてきた不法移民問題や外交政策について、共和党のトランプ前大統領を激しく批判しつつ、不安払拭を図った。4日間の大会は最高潮のうちに幕を閉じたが、期待やイメージが先行している面は依然否定できない。今後いかに具体策を浸透させられるかが課題となる。(シカゴ・鈴木龍司)

◆「破綻した移民制度を改革できる」

22日、米シカゴの民主党大会で、大統領候補の指名を受諾し、演説するハリス氏=鈴木龍司撮影

 「はっきりさせておきたい」。ハリス氏は移民政策でこう切り出すと、議会で共和党が反対する国境管理を厳格化する法律の整備を約束。「移民国家の誇り高き伝統を守り、破綻した移民制度を改革できる」と訴えた。  ハリス氏はバイデン政権で不法移民対策の中心を担っているが、メキシコ国境から不法移民が増えると、トランプ氏は「大失敗」と攻撃。「極左のマルクス主義で国境開放を望んでいる」などとレッテルをはられてきただけに、弱点ではないと否定する必要に迫られていた。  経験不足を指摘されてきた外交・安全保障では、中国とロシアに毅然(きぜん)と立ち向かう姿勢を強調。特に若者から批判が強い中東政策では、イスラエルの自衛権支持を明確にしつつも、パレスチナ自治区ガザの人道危機を止めるために停戦合意への決意を語るなど、バランスを取るよう努めた。  北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記を名指しして「私はトランプを応援している専制君主や独裁者に寄り添うつもりはない」と強調。イランには「国益を守るためなら、必要な行動をためらわない」と踏み込んだ。

◆支持率伸びるが、激戦州では差がつかず

 バイデン大統領の撤退後、ハリス氏は急速に支持率を伸ばしてきた。政治サイトのリアル・クリア・ポリティクスによると、22日時点の全米での支持率平均は、ハリス氏が1.6ポイント差とわずかにトランプ氏をリードしている。バイデン氏から遠ざかっていたリベラルな若者や女性、黒人らの支持を呼び戻しつつあるとみられる。

22日、米シカゴの民主党大会で、演説を終えて副大統領候補のウォルズ氏(右)と支持者の声援に応えるハリス氏=鈴木龍司撮影

 ただ、勝敗のカギを握る七つの激戦州では、トランプ氏と拮抗(きっこう)しており、11月の投開票日まで激戦が続くのは必至の情勢だ。  弱点の一つが政策の認知度とされる。米CBSテレビの今月中旬の世論調査では、36%が政策をよく知らないと回答し、トランプ氏の14%を上回った。  全米の注目を集める党大会の演説で、泣きどころとされる政策に広く言及したのは、強いリーダー像を印象づける狙いがあったからだとみられる。

◆「バイデン推し」だった高齢者層の取り込み課題

 ノースウエスタン大のヘザー・ヘンダーショット教授は「彼女は自信を示す必要があり、自らの資質に焦点を当ててそれを果たした。投票への影響は未知数だが、政党支持なし層を含めて党大会の演説は注目が集まるからだ」と、今回の演説を評価した。  一方、ヘンダーショット氏は「今回の大統領選はジェットコースターのような展開で、常に波がある」とも指摘。「ハリス旋風」の持続性は流動的で、残り2カ月半で、バイデン氏を推していた高齢者層の取り込みを含め、激戦州のてこ入れが不可欠との見解を示した。 

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