【ソウル=上野実輝彦】東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まってから24日で1年。日本産水産物の輸入を全面禁止した中国と違い、韓国では日本産の輸入や消費に大きな影響は出ていない。対日関係を重視する尹錫悦(ユンソンニョル)政権が科学的な説明に力を入れたことが、韓国市民の冷静な対応につながったとみられる。  「タイ、シマアジ、イサキ 原産地 日本」。ソウルの大規模水産市場、鷺梁津(ノリャンジン)市場では23日、多くの店に日本産の魚が並んでいた。鮮魚店主の男性(56)は「放出直後の1~2カ月は日本産は売れなかったが元通りになった。避けたがる客はいるけれど、売り上げに影響がない程度だ」と現状を説明した。

シマアジやマハタの原産地が日本と明示されている=23日、ソウル・鷺梁津水産市場の鮮魚店で(上野実輝彦撮影)

◆日本産水産物の輸入は堅調

 日本産ホタテなどを販売する女性は「政府が毎日検査をしているし、時間がたって状況は落ち着いた」と話す。以前は場外に多数見られた「国民の不安をあおる『汚染水怪談』をやめよ」などとの横断幕は、姿を消した。  日本産水産物の輸入は堅調だ。韓国海洋水産省によると、2024年上半期の日本産輸入量は約1万8000トンで、処理水放出前の前年同期と比べて13%増えた。処理水放出後も含む23年の輸入量は22年より減ったが、21年とは同じ水準だ。  水産物全体の売り上げも順調。同省によると、23年8月以降の大手スーパー3社の水産物の売り上げはほぼ毎月、平年を上回った。聯合ニュースは「放出後、水産物の消費が明確に萎縮する傾向はなかった」との同省関係者の見方を報じた。

◆放射能検査など風評対策を徹底した韓国政府

 処理水の放出を巡り、韓国政府の風評などへの対応は徹底していた。天然塩の買いだめや抗議集会が起きると、政府は水産物や近海、塩田を対象に、1年間で計約5万件の放射能検査を実施。今月21日、いずれの検査でも基準値を超えた例はなかったと公表した。この1年間で実施した記者説明は、対面と書面を合わせて240回を超えた。  日韓筋は「関係者との間で処理水放出はほぼ話題に上らない」と話す。ただ、福島第1原発事故を受け、韓国は福島など8県の水産物の輸入禁止措置を続けており、日本政府は引き続き規制の撤廃を働きかける方針だ。 

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