<ミャンマーの声>  ミャンマーから来た子どもたちが通うタイ北西部ターク県の移民学校で、現地のクリニックと日本のNPO法人が連携し、歯科検診と歯磨き指導を始めた。2021年2月の軍事クーデター後、ミャンマーから避難民が流入し、移民学校の生徒が急増。子どもたちへの保健衛生面のケアが急務になっている。(北川成史)  取り組みの中心はミャンマーからの移民や避難民に医療を無償提供する現地の「メータオ・クリニック」と、日本のNPO法人「メータオ・クリニック支援の会(JAM)」。新学期が始まった6月から半年かけ、ターク県の全ての移民学校約70校を回る。  8月上旬にはターク県メソトの移民学校で、歯科検診を実施した。同校は幼稚園から小中高世代(1~12年生)の356人が通う。

◆虫歯10本以上「お金がかかるので歯科には行かない」

 「ほとんどの子に虫歯があるね」。3年生を検診しながら、クリニックの男性歯科医師はつぶやいた。虫歯が10本以上ある子もめずらしくない。医師は「歯磨き習慣や歯科に通った経験がないのだろう」と推し量る。  「お金がかかるので歯科には行きたくない」と話す生徒も。子どもたちは歯の成長に合わせた歯ブラシをもらい、毎日の歯磨きを指導されていた。

8月上旬、タイ北西部ターク県の移民学校で実施された歯科検診

 ターク県にはもともと移民労働者も多いが、クーデター後のミャンマーで国軍と民主派や少数民族との内戦が続き、避難民の流入が絶えない。県内の移民学校の生徒総数は21年度時点で約9000人だったが、今は1万8千人以上とみられる。  生徒の間でなぜ虫歯が目立つのか。まずコストだ。  JAM現地派遣員の有高奈々絵医師によると、移民や避難民はタイの公的医療保険制度の枠外にあり、一般の歯科では高額の治療費を請求される。メータオ・クリニックは無料で診療するが、正式な在留資格を持たない移民らは、移動中に逮捕される危険を恐れ、通院をためらいがちという。  そうなると、歯磨きなどによる予防がかぎを握る。「クーデター後、親が子どもだけタイに避難させ、移民学校に通わせるケースもある。学校での指導が重要」と有高さんは指摘する。  だが、移民学校では歯科衛生教育や検診が欠けていた。有高さんは「現在は多くの移民学校で、生徒数の増加に対し教師の数が不十分で、なお手が回らないだろう」とおもんぱかる。

◆カギは予防、日本の歯科医師も協力

 今回のプロジェクトは、JAMが本年度、政府開発援助(ODA)の「NGO連携無償資金協力」事業として承認を受け、日本政府の資金約150万円を活用する形で始まった。  取り組みには、福岡市の歯科医師松本敏秀さん(66)も手弁当で加わっている。今回、約70万円かけて、生徒に配る歯ブラシのうち約1万5000本分も寄付した。

タイ北西部ターク県の移民学校で6月、歯科検診をする松本敏秀さん㊨(JAM提供)

 かつて勤務していた九州大病院の小児歯科で、ミャンマーからの留学生を指導した縁で、ミャンマーが民政移管した11年以降、同国に通い歯科検診のボランティアを続けていた。この間、子どもたちに歯ブラシ計20万本以上を寄付してきたが、コロナ禍とクーデター後の情勢不安定化で活動中断を余儀なくされた。代わりに隣国タイでの活動に力を注いでいる。  「子どもたちの虫歯や病気を防げるなら安い出費」という松本さん。「早く軍政が終わり、ミャンマーの人々が医療体制を立て直していく中で、自分も再び現地で貢献したい」と願う。 

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