米民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が初めて直接対決した10日の大統領候補テレビ討論会は、ハリス氏がトランプ氏を終始挑発し、攻め続けた。防御に回ったトランプ氏は冷静さを欠き、怒りをあらわに。初対決は、ハリス氏優勢の印象が強かったものの決定打には欠け、「弱点」も浮かび上がった。(ワシントン・浅井俊典)

◆「世界の指導者はトランプを笑いものにしている」

 「なぜ質問に答えないんですか?」。ハリス氏がトランプ氏の発言中にこう口を挟むと、トランプ氏は不服そうな表情を見せた。90分超に及んだ一騎打ちは、検察官出身のハリス氏が、これまで「犯罪者」と批判してきたトランプ氏を追い詰める攻勢が目立った。  黒人の父とインド系の母を持つハリス氏に人種差別的な発言を繰り返してきたトランプ氏を「人種を米国民の分断に利用している」と一蹴。あえて「ドナルド・トランプ」と呼び捨てにし、「世界の指導者はトランプを笑いものにしている。米軍の指導部も恥だと言っている」と挑発した。  トランプ氏は明らかにいら立ち、ハリス氏への攻撃材料の不法移民対策に話題を集中させようとしたが、司会者に制止され、反撃の機会を得られなかった。  討論会終了後も怒りは収まらず、予告なしに報道陣の前に登場。「楽しかった。これまでで最高の討論会だった」と強弁した。米メディアは「ハリス氏がわなをしかけ、トランプ氏がはまった」と一様に報じた。

◆狙いはトランプ氏の過激で攻撃的な性格を引き出すことだった

 ハリス氏は本番前、ホテルに5日間こもり、周到な準備を重ねた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、討論会の舞台を再現し、服装まで似せたトランプ氏役のアドバイザーを相手に模擬討論を繰り返した。  ハリス氏の狙いは、自らを冷静で大統領にふさわしいという印象を与えるとともに、トランプ氏の過激で攻撃的な性格を引き出すことにあった。  ジョージ・ワシントン大学のトッド・ベルト教授は「ハリス氏の方が良かった。よく準備していて、あらゆる質問と話題に答えを持っているようだった」と指摘した。

◆「哀れむような表情」印象悪く

 ただ、ハリス氏も全ての質問に正面から答え、自らの政策を詳しく説明したとは言いがたい。さらにトランプ氏の発言中に大げさに笑ったり、哀れむような表情を見せたりしたことで、評価が分かれた。  ハリス氏にとってはトランプ氏を挑発するための戦略で、交流サイト(SNS)では早速、ハリス氏の表情をネタにする好意的な投稿が拡散。一方、共和党からは「ハリス氏は討論には勝ったが、印象面では自らを傷つけた」(世論調査専門家のフランク・ランツ氏)などと冷静に分析する声も出ている。  過去の討論会では、候補の表情や印象が終盤の情勢に影響を与えたこともある。2000年、当時のゴア副大統領が共和党候補のブッシュ(子)氏の発言中、大きなため息をつくなどした振る舞いが「相手を見下している」と受け止められ、最終的に大接戦となり、敗北につながったとされる。ハリス氏の今回のパフォーマンスも、選挙戦を左右する無党派層をかえって遠ざける恐れがある。 

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