イギリス国防省は、14日に発表した戦況分析で、ウクライナ軍は、越境攻撃を行うロシア西部のクルスク州で、ロシア軍の補給ルートとなっている橋を破壊するなど、攻撃を続けているとしています。

破壊されたとする橋の衛星写真もSNSに掲載され、ウクライナ軍は、ロシア軍の後方支援の妨害を試みるなど、作戦を実行しています。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は14日、クルスク州には、60以上の部隊にあわせておよそ3万5500人のロシア人兵士がいるとするウクライナの軍事専門家の見方を伝え、ロシア軍も部隊を増強して反撃しているとみられます。

ウクライナは、激戦が続く東部ドネツク州に加えて、ロシア領内にも戦線を広げたことで、一層の兵力の確保が課題となっています。

ウクライナのシビハ外相は13日から首都キーウで始まった国際会議で、隣国ポーランドには軍への動員の対象年齢となるウクライナ人男性がおよそ30万人いて、志願兵の部隊を結成する準備を進めていると明らかにしました。

その上で「世界にはおよそ100万人がいる。正義の問題だ」として国外にいるウクライナ人男性たちに部隊に加わるなどして祖国を支えてほしいと呼びかけました。

ウクライナ軍“志願兵部隊”の訓練は

ウクライナで兵士不足が指摘される中、志願兵でつくる部隊の1つが第3独立強襲旅団です。

おととし激戦となった東部ドネツク州のマリウポリなどの防衛に関わった当時の「アゾフ大隊」の隊員らが設立し、高い人気を誇っています。

旅団は去年、激戦が続いたドネツク州のバフムトでも戦ったほか、現在は、東部ハルキウ周辺に展開しているとしていて、SNSにはロシア軍を撃退したとする動画をたびたび投稿しています。

今回、NHKは詳しい場所を明かさないことを条件にウクライナ国内の拠点の取材を許可されました。

敷地内では、女性を含むおよそ30人が訓練を受けていましたが、初めて銃を手にしたという人も多くいました。

こうした人たちへの丁寧な指導も特徴の1つで、この日は、けがをした仲間に止血をほどこすなど救命措置を学んだあと、負傷兵を運び出す手順などを確認していました。

バーテンダーだったという25歳の男性は「戦争で最も効果的に動けるような訓練を提供してくれていると思う。国民が1つになって戦えば勝利できる」と話していました。

命を落とした親友のかたきをとるため旅団に入ったという21歳の女性は「より士気が高い部隊で、ここでは優秀な人に指導してもらえる。ロシアは私たちのすべてを破壊する。戦死した兵士たちのため敵に復しゅうする」と話していました。

訓練を行っている教官役の兵士は「すべての志願兵は動機がしっかりしている。われわれ司令部とこうした人たちの相互作用が前線や後方支援の面でもいい結果を生み出している」と話していました。

専門家「志願兵を積極的に募り重視する動き」

ウクライナで兵員不足が指摘されていることについて防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は「人口格差で兵力面ではロシア軍が優勢な一方でウクライナでは一部の人たちが国外に逃げるなど徴兵を忌避する動きがあった」と述べました。

その上で「戦争の長期化で国民のえん戦機運が徐々に高まっていると思う。強制的な動員が難しい中、志願兵を積極的に募り重視する動きが続いていく」と述べ、ゼレンスキー大統領は自身の支持率の低下につながりかねない動員よりも志願兵で兵力を確保したいのではないかと分析しました。

また、ウクライナがロシア西部クルスク州へ越境攻撃を仕掛け、ロシア側が反撃していることについては「ロシア側の部分的な反撃が始まったが完全に奪還するためには兵力をクルスク州に集中させないといけない。しかし、ロシアはウクライナ東部での進軍にも注力していて、プーチン大統領は兵力をどう配分するか大きなジレンマに直面していると思う」と述べました。

一方、ウクライナ側については「クルスク州の占領地域が広がるほど、ロシアとの今後の交渉で大きなカードとなるが、ウクライナ東部でロシア側の攻勢が強まり危険も出てくる。ウクライナ東部とクルスク州の両方で戦うのは簡単ではない」と述べ、ウクライナとロシアとの間でどちらの戦線に戦力を集中させていくか駆け引きが続くとの見通しを示しました。

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