中国の各都市で運転手を乗せない完全自動運転タクシー(ロボタクシー)が急速に普及している。先進地の湖北省武漢では400台が投入され、休みなく働き続ける。一方、今後も続く大量投入にタクシー運転手の中には職を奪われる不安が高まっている。(武漢で、石井宏樹、写真も)

街中を走る百度のロボタクシー

◆信号では余裕持って停止、慎重すぎて周りはイライラ?

 工場が集積する経済開発区を訪れると、検索大手・百度(バイドゥ)のロボタクシー「蘿蔔快跑(らふくかいほう、英名アポロ・ゴー)」の車両が数分おきに通りを走る姿を見かけた。運転席は無人で車両上部にレーダーを搭載し、一目で自動運転車両と分かる。乗り方は通常のインターネット配車サービスと同じで、専用アプリで乗降する場所を指定して、利用が終わると自動決済で引き落とされる。  感想は「安全だが遅い」だ。路上駐車や自転車が横にあると時速30キロ程度に減速される。信号と通信し、青信号でも余裕を持って停止。発車も前方車両と一定の距離が空くまで動かないため、後続車がクラクションを鳴らすこともあった。

◆セールを使えば半額の運賃で乗車

 百度は5月に今年中に武漢で1000台のロボタクシーを投入すると発表。市内の大部分をカバーし、来年には武漢で黒字化を達成する見通しを示すと、普及の現実味が一気に増して注目を集めた。  自動運転を支える人工知能(AI)の高度化を進めると同時に車両コストも1台約20万元(400万円)に引き下げた。中国メディアによると、アポロ・ゴーの武漢での運賃は距離あたりで2~3割安く、セールを利用すると半額程度になるという。  百度は北京など11都市でロボタクシーを運営し、700万件以上の運行実績を誇る。トヨタ自動車と連携する「小馬智行(ポニー・エーアイ)」などライバル企業も実績を重ねる。

◆運転手「必ず大きな失業問題を引き起こす」

百度のロボタクシーの車内の様子

 景気が低迷する中国ではタクシー運転手は失業者の受け皿となっており、すでに飽和状態だ。ロボタクシーの普及は「AIに仕事を奪われる」という危機感を刺激する。  武漢のタクシー運転手は「不景気の今、進めるべきではない」といら立ちを隠さない。運転手によると、タクシー会社が地元政府に「これ以上の投入を許すなら抗議運動をする」と陳情しているという。「大雨で長時間、停車を余儀なくされた」など技術面の未熟さを指摘する報道も注目を集めている。  政府主導で進められてきたロボタクシーだが、タクシー運転手の反発で普及にブレーキがかかる可能性もくすぶる。別の運転手は「必ず大規模な失業問題を引き起こす。全面的な導入などできっこない」と吐き捨てるように話した。 

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