【北京=河北彬光】中国南部の広東省深圳で日本人学校の男児(10)が通学中に刺殺された事件を巡り、中国で日本との対立をあおる言論を規制する動きが表面化している。先に対策を公表していた交流サイト(SNS)に続き、人気動画投稿アプリの運営元が有害なアカウントや投稿の削除を公表した。中国当局は排外的な言論に神経をとがらせているが、日本側は不十分だとして対策強化を求めている。  中国で利用者が多い動画投稿アプリ「快手(クワイショウ)」は21日、事実でない有害な情報発信で日中関係の対立をあおったとして、90余りのアカウントを削除したり投稿を禁止したりする措置を取ったと公表した。利用者に対し、理性的な表現に努めるよう求める一方、日中間の対立をあおる投稿に関し「利用者の通報を歓迎する」と呼びかけた。

中国・深圳市の深圳日本人学校で20日、校門前に花を手向ける人(河北彬光撮影)

◆日本人を標的にした投稿が絶えず

 6月に江蘇省蘇州でスクールバスを待っていた日本人母子ら3人が刺された事件後にも、短文投稿サイトの微博(ウェイボ)や中国IT大手の騰訊控股(テンセント)などが相次いで問題のあるアカウントや投稿を削除したと公表。中国で投稿の削除は日常的にあるが、運営元が規制強化を公表するのは異例だ。中国政府の意向を踏まえ、排外的な言動に厳しい姿勢を示す狙いがあるとみられる。  ただ規制を公表したSNS以外にも、いまだ日本人を標的にした言論が絶えない。事件を受け、北京を訪れた柘植芳文外務副大臣は中国外務省の孫衛東(そんえいとう)外務次官と23日会談し、類似の事件の再発防止のため「根拠のない、悪質で反日的なSNSの投稿」の取り締まり徹底を求めたことを明らかにした。

◆「中国に『日本を恨む教育』はない」

 日本側の要求に対し、中国外務省の林剣(りんけん)副報道局長は同日の記者会見で「中国にはいわゆる『日本を恨む教育』はない」と主張。ただ、これまで中国側は容疑者の動機面などの詳細を公表していない上、「類似の事件はどの国でも起きうる」(林剣氏)とも述べており、不十分な情報公開が誤った情報の拡散を招いているとの批判も出ている。    ◇  深圳日本人学校の男児刺殺事件を受け、北京を訪問した柘植芳文外務副大臣は23日、中国内の日本人学校の警備強化に外務省の本年度予算から4300万円を充てることを明らかにした。

◆在中国の日本人学校は不審者対応を強化へ

 北京の在中国日本大使館で開かれた中国日本商会などとの意見交換会で述べた。中国に12校ある日本人学校で、学校や周辺の警備のほかスクールバス乗降時の不審者対応も強化する。外務省は来年度の概算要求で中国のスクールバスの警備強化に3億5000万円を計上したが、保護者から来年度を待たず早急な対応を求める声が出ていた。

中国・深圳市の深圳日本人学校で20日、中国人が校門前に花束を手向けた(河北彬光撮影)

 外務省は来年度予算の概算要求で中国のスクールバスの警備強化に3億5000万円を計上したが、保護者から来年度を待たず早急な対応を求める声が出ていた。柘植氏は「子どもの安全確保を最優先にできることは全て行っていく」と述べた。

◆容疑者の動機面の説明、求めても回答なし

 柘植氏は中国外務省の孫衛東(そんえいとう)外務次官との会談で、動機面の説明を重ねて求めたことも記者団に明らかにした。孫氏は答えず、従来通り事件は「偶発的」だとした上で「今回の件が日中関係全体に影響を与えてはならない」とも述べた。柘植氏は「まず動機を示さないと、どのような対策が打てるか明確に指示を出せない」と述べ、引き続き説明を求めるとした。  同日には、男児の葬儀が深圳市内の葬儀場で営まれた。 

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