トランプ氏は刑事裁判で大統領としての免責特権を主張している=ロイター

【ワシントン=芦塚智子】米連邦最高裁は25日、トランプ前大統領が2020年の大統領選で敗北した結果を覆そうとした罪で起訴された裁判を巡り、大統領の免責特権を認めるかどうかについて審理した。トランプ氏が主張する「絶対的な免責」には否定的な姿勢を示したが、多数派を占める保守派判事は一定の免責を認める立場を示唆した。

最高裁は7月初めまでに判断を下す。米メディアは、最高裁が下級審に免責の範囲を定めるよう指示する可能性が高いと報じた。その場合は最終決着まで時間がかかり、トランプ氏の裁判の開始がさらに遅れることになる。裁判の選挙活動への影響を懸念して引き延ばしを図ってきたトランプ氏には有利に働く。

口頭弁論では、起訴の対象となったトランプ氏の行為が公務か私的な行為かが焦点の一つとなった。保守派判事からは、大統領の公務にあたる行為は一定の免責が必要との見方を示す発言が相次いだ。下級審に起訴状の中で公務に当たる行為と私的な行為を判断させる考えを示唆した。

保守派のアリート判事は「大統領は多くの困難な決断をしなくてはならない。間違いを犯した場合に一般人と同じ刑事訴追を受けるとすれば、特別に不安定な立場になると思わないか」と述べ、公務に関する免責の必要性に理解を示した。

また現職大統領が再選に失敗した場合、政敵による刑事訴追を恐れなくてはならない状況になれば「民主主義国家としての米国の機能を不安定にするのではないか」と懸念を表明した。

保守派のゴーサッチ判事は「将来、政敵を狙って刑事訴追が利用されることを懸念している」と語った。

一方でリベラル派判事は、免責に慎重な姿勢を示した。ケーガン判事は「大統領は君主ではなく、法を超越する存在ではない」と強調した。ジャクソン判事も、大統領に広範囲な免責を与えれば罪を犯すことに「大胆になる」危険性があると警告した。

保守、リベラル双方の判事が、大統領が大使指名と引き換えに賄賂を要求したり、政敵の暗殺やクーデターを企てたりした場合を例に挙げ、完全な免責を認めることには否定的な発言をした。

判事9人で構成する連邦最高裁はトランプ氏が保守派判事3人を指名したことで保守派6人、リベラル派3人と保守に大きく傾斜している。

首都ワシントンの連邦控訴裁が3月に免責を認めない判決を下し、トランプ氏側が最高裁に控訴裁の判決を発効させないよう審理を求めた。

連邦最高裁は00年大統領選で勝敗を決する判断を下した。今年3月には共和党の大統領候補を選ぶ西部コロラド州の予備選にトランプ氏の参加を認める判断を下した。

免責を巡る最高裁の判断は、機密文書を不正に持ち出した罪の裁判や、南部ジョージア州で大統領選の結果を覆そうとした罪の裁判にも影響する可能性がある。

ニューヨークの州裁判所で開かれている口止め料を巡る裁判は、トランプ氏の大統領就任前の問題のため影響はないとみられる。

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