イスラエル軍は28日、レバノンの首都ベイルート近郊の空爆でヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したと発表しました。

軍の報道官は「ナスララがヒズボラの本部でさらなる攻撃の指揮をしていたところをイスラエル軍の精密な攻撃で殺害した」と述べました。

AP通信は専門家の分析としてイスラエル軍はこの空爆で地下施設の攻撃に使われる「バンカーバスター」と呼ばれる、厚いコンクリートなどを突き破って爆発を起こす特殊な爆弾を使った可能性を報じています。

イスラエル軍は、その後もベイルートなどでヒズボラの拠点への空爆を繰り返しています。

一方、ヒズボラ側はナスララ師の死亡を認めた上で、「ガザやパレスチナを支援し、レバノンを守るために敵との戦いを続ける」としてイスラエル領内へのロケット弾攻撃を続けています。

またヒズボラの後ろ盾となっているイランは、最高指導者ハメネイ師が声明を出し、「この地域の抵抗勢力はヒズボラとともにあり、ヒズボラを支援している」として各地の武装組織と連帯しイスラエルを強くけん制する構えです。

こうした中、28日、イスラエルの南方のイエメンの方面からイスラエル最大の商業都市テルアビブに向けてミサイルが発射され、イスラエル軍はこれを迎撃したと発表しました。

現地ではナスララ師の殺害をきっかけに軍事的な緊張がいっそう高まっています。

バイデン大統領 ナスララ師殺害は「正義の措置」

アメリカのバイデン大統領は28日、イスラエル軍がレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者、ナスララ師を殺害したことについて声明を発表しました。

この中でバイデン大統領は「ナスララとヒズボラは40年間にわたる恐怖政治のもと何百人ものアメリカ人を殺害した責任がある。何千人ものアメリカ人やイスラエル人、それにレバノンの民間人を含む多くの犠牲者にとって正義の措置だ」としています。

また「アメリカはヒズボラやハマスなどイランが支援するテロ組織から自国を防衛するイスラエルの権利を全面的に支持している」と強調するとともに、国防長官に対して中東地域における防衛態勢をさらに強化するよう指示したことを明らかにしました。

その上で、最終的には外交手段を通じてガザ地区とレバノンの紛争を解決することを目指すとしています。

一方、アメリカ国務省は28日、レバノンの首都ベイルートにあるアメリカ大使館の一部の職員やその家族に対し、国外に退避するよう命じました。

イスラエル 市民からさらなる報復を懸念する声

イスラエル軍が隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したことでイスラエルの市民からはさらなる報復を懸念する声も聞かれました。

このうちエルサレムに住む男性は「ナスララ師を殺害したことは歓迎していますが、ヒズボラはさらに攻撃をしてくるでしょう」と話していました。

また、エルサレムに住む女性は「解決策が誰かを殺害することだったのは、悲しいことです。これがよい解決策だとは思いません」と話していました。

また、たびたびヒズボラによる攻撃の標的になっている北部のハイファからエルサレムを訪れていた男性は「ナスララ師が殺害されても次により過激な指導者が出てくるのが心配です」と不安そうに話していました。

ヒズボラの最高指導者ナスララ師とは

ヒズボラの最高指導者ナスララ師は、1960年にレバノンの首都ベイルートで生まれ、イラクに留学後、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻をきっかけに、ヒズボラに参加し、武装闘争を始めました。

そして、1992年に当時のヒズボラの最高指導者が暗殺されたことを受けて後継者となって以降、30年余りにわたってヒズボラを率いてきました。

2006年、およそ1か月にわたるイスラエルとの大規模な戦闘の末に停戦が実現した際には、イスラエルが停戦に応じたのはヒズボラの抵抗に屈したためだとして「レバノンにとって歴史的な勝利だ」と勝利宣言を行いました。

また、去年10月にパレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルと戦闘を始めた翌日には、イスラエル北部を砲撃するなどハマスと連帯してイスラエルと対決する姿勢を鮮明にしました。

さらに今月、トランシーバーなどヒズボラの関係者も使う通信機器が2日連続で爆発し、多数の死傷者が出た際には、イスラエルによる犯行だとした上で「正当な処罰を受けることは間違いない」などと報復する構えを示していました。

長く最高指導者を務めてきたナスララ師の殺害を受けて、後継者選びや今後の活動方針への影響が焦点となります。

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