【ソウル=木下大資】女性作家ハン・ガン(韓江)さん(53)のノーベル文学賞決定から一夜明けた11日、韓国は祝賀ムードに包まれた。自国の悲劇的な現代史を題材にしてきたハンさんが、言語を超えて世界の共感を得たことは、韓国人に驚きと誇らしさを持って受け止められている。  テレビ取材に応じた父親で作家の韓勝源(ハンスンウォン)さんによると、ハンさんはウクライナや中東などで戦争が激化している情勢を勘案し、受賞決定を受けた記者会見は開かない意向だという。

ハン・ガンさんの著作を求めて書店の開店と同時に入店する人たち=11日、ソウルで(木下大資撮影)

 一方、ソウルの書店にはハンさんの著作を買い求めようとする市民が開店前から列をつくった。  画家の羅呉美(ナオミ)さん(42)は、代表作「菜食主義者」について「あまりに深い悲しみに目を背けたくなるが、背けてはいけないと思わせる」と魅力を説明。「韓国では美術界でも政治色を隠そうとするが、ハンさんを見て『自分の声を出さなければいけない』と思った」と刺激を受けた様子だった。  ハンさんは、過去に軍などが民間人を虐殺した「済州4・3事件」や「光州事件」など、歴史上の悲劇を題材にした作品も多い。全作品を読んだという会社員・李恵賢(イヘヒョン)さん(31)は「韓国の歴史という大きなテーマを扱いながらも、人間の愛情や繊細なタッチ、文学的な流麗さを失わない」と指摘。今回の受賞が「多くの人が歴史から目を背けず、語り合える社会に変わるきっかけになれば」と話した。

ハン・ガンさんのノーベル文学賞決定を伝える韓国各紙=木下大資撮影

 11日付の韓国紙は、国内初の快挙を1面や社説で大きく扱った。すでに世界中で受け入れられているK-POPや映画に加え、文学分野での快挙に「韓国は大衆文化だけでなく、文学でも世界最高水準に跳躍することになった」(朝鮮日報)などと評価。韓国語作品のニュアンスを伝える優れた翻訳が、受賞決定に貢献したとの分析も目立った。 

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