【深圳=河北彬光】中国広東省深圳の深圳日本人学校の男児(10)が刺殺された事件は18日、発生から1カ月となった。中国当局は「手続き中」として、容疑者の動機や背景を明らかにしていない。深圳の事件前後にも、公の場で人に刃物を向ける事件が相次ぐ。経済停滞で社会の閉塞(へいそく)感が増し、外国人や子どもが不満のはけ口になっているとの指摘も出ている。

18日、深圳市で、深圳日本人学校の男児が刺された現場。事件から1カ月となった=河北彬光撮影

◆「中国の景気悪化の影響か」…

 「事件は偶発的だ」。深圳市人民代表大会常務委員会の蔣宇揚(しょううよう)副主任は18日、訪中した愛知県の大村秀章知事と深圳市内で会談し、政府見解と同じ言葉を繰り返した。広東省との友好提携5周年で訪れた知事が遺憾の意を示したのに対し、蔣氏は「哀悼の意を表する」とした一方で「どこでも起き得る事件。警察が原因究明中だ」とも話した。  深圳市当局は事件2日後、拘束した男(44)が定職についていなかったことを公表。関係者によると、事件直前に金銭問題を抱えていたとの情報もある。深圳の日本人駐在員は「中国の景気悪化の影響か、同様の事件が絶えないのは怖い」と話す。

◆「憂さを晴らすため」切りつける

 9月30日には経済トラブルを抱えた男が上海のスーパーで18人に切り付け、うち3人が死亡する事件が発生。警察当局は男が「憂さを晴らすため」だったとした。広東省広州でも今月8日、小学校前で小学生ら3人が男に切り付けられる事件が起きている。  中国では景気減退で雇用情勢の悪化が続く。6月に吉林省で米国人ら5人が刺された事件の容疑者は失業中だと報じられた。江蘇省蘇州で6月、日本人学校のスクールバスを待つ母子ら3人が切り付けられた事件も容疑者は無職だった。

◆「愛国主義の旗印の下で暴力扇動を容認してはならない」

 行き過ぎた「愛国教育」がナショナリズムをあおり、排外的な行動を起こしているとの指摘もある。中国では1990年代、当時の江沢民(こうたくみん)総書記の下で日本の侵略を強調する教育を強化。習近平(しゅうきんぺい)政権でも今年1月、愛国教育の徹底をうたった新法を施行した。  中国の政法大と北京大の研究者は深圳事件を巡る論考で、中国内の過激な反日感情に懸念を表明。中国の個人のニュースサイトで「事件は反日教育の影響だ」との指摘が相次ぐことに触れ「愛国主義の旗印の下で暴力扇動を容認してはならない」と警鐘を鳴らした。  中国外務省は「反日教育はない」(林剣(りんけん)副報道局長)と否定する。ただ事件後、四川省幹部が「私たちの規律は日本人を殺すこと」と交流サイト(SNS)のグループ内で発言し、調査を受けていることが明らかになるなど問題は根深い。 

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