イスラエル軍は26日未明、日本時間の26日午前8時半ごろ「イランの軍事目標に対する正確な攻撃を実施している」と発表し、10月1日にイランがイスラエルに行った180発を超える大規模なミサイル攻撃への対抗措置に踏み切りました。

そして日本時間の26日正午ごろ発表した新たな声明で、イラン国内の複数の地域に空爆を行い、ミサイルの製造施設や地対空ミサイルシステムなどを攻撃したと明らかにし、「任務を達成した」としています。

一方、イランの国営テレビは現地時間の26日午前2時すぎ、日本時間の26日午前7時半すぎ、首都テヘランの周辺で複数の爆発音が聞こえたと伝えたほか、そのおよそ3時間後にもテヘランの東部や中心部で再び複数の大きな音が聞こえたということです。

イラン軍の防空本部は声明で、首都テヘランのほか南西部のフーゼスタン州と西部のイラム州にある軍事施設が標的になったと発表しました。

発表では、防空システムによる迎撃が成功したと強調する一方で、いくつかの場所では限定的な被害が出ていて、詳しい状況を調査中だとしています。

また、イランの国営テレビはイラン軍の声明として、イスラエルが発射した飛しょう体によって兵士2人が死亡したと伝えました。

一方、アメリカのバイデン政権がイスラエルに自制を求めていた核施設や石油生産施設などへの攻撃は、これまでのところ確認されていません。

イスラエル軍のハガリ報道官は「イランが再び攻撃を行うという過ちを犯した場合は、われわれは対抗する義務がある」と述べ、イランをけん制していて、今後のイランの出方が焦点となります。

中東の軍事大国のイスラエルとイランがことし4月に続いて互いに直接的な攻撃の応酬に踏み切る事態となり、イラン側の被害の状況次第では地域の緊張がさらに高まるおそれがあります。

米ニュースサイト“イスラエルが空爆の前 イラン側に警告”

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は、複数の情報筋の話として、イスラエルがイランへの空爆に先立つ25日、イラン側に反撃を行わないよう警告するメッセージを事前に送っていたと伝えました。

メッセージはオランダの外相など第三者を通じて伝えられ、イスラエル側が攻撃対象とする施設や攻撃対象としない施設をおおまかに通知していたということです。

また、イランの反撃によってイスラエルの国民が死傷した場合にはさらに大規模な攻撃を行うことになるなどとけん制し、反撃しないよう警告していたということです。

アクシオスは情報筋の話として「イスラエルのメッセージは両国の攻撃の応酬に歯止めをかけ、情勢悪化の拡大を防ぐねらいがあった」と伝えています。

またアクシオスは、イスラエル軍が今回の攻撃を3段階で行い、はじめは防空システムを、その後はミサイルや無人機の基地と兵器の生産拠点を狙ったと伝えています。

そしてイスラエル軍関係者の話として、攻撃には数十機の戦闘機が使われたとしています。

専門家「攻撃に配慮 一応の手打ちができて落ち着くのでは」

イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授は、今回の攻撃がイランの軍事目標に標的を絞って行われたことについて、「均斉の取れた攻撃にしようと配慮したといえる。民生施設や原子力関係の施設などが攻撃されれば、イランも次の報復でイスラエル側の同じような施設を標的とすることになる。今回の攻撃の程度で見ると一連の応酬がいったん収束に向かうようにイラン側で判断できる程度に事を収めたといえる」と指摘しました。

その背景については、アメリカのバイデン大統領が核施設や石油生産施設への攻撃について自制を求めていたことなども踏まえて、「攻撃の応酬が拡大するようなことになれば、アメリカがイスラエルに対する十分な支援を続けなくなる可能性があるとくぎをさされていたことが作用したのではないか」と分析しています。

また、今後のイランの出方については「これから明らかになる被害の状況によるが、今出ている情報にとどまるならば、一応の手打ちができて、イランはこれ以上の再報復をしなくてもいいというところに落ち着くと思う」と述べました。

そのうえで「互いに相手を攻撃すれば必ず手傷を負うことになるということを確認し合ったということになるので、賢明な指導者たちであればこれ以上、お互いに直接手を下すようなことはしないということに至るのだと思うが、それが本当に維持されるのか、まだ分からないところはある」として、今後の情勢も不透明さを伴うと指摘しました。

イラン市民 “反撃を” “自制を” 反応分かれる

イスラエルが26日未明にイランへの空爆を行った後、一夜明けた首都テヘランは、仕事に向かう人が通りを行き交い、市場では野菜や果物を並べて開店の準備を行うなど、通常と変わらない様子が見られました。

市民に話を聞くと、イラン政府にイスラエルへの反撃を求める声が聞かれる一方、事態の悪化をおそれて自制を求める声も聞かれました。

このうち52歳の男性は「われわれは強力な反撃を行わなければなりません。イスラエルの行動を許せば、彼らはより多くの妥協を求めてくるでしょう」と憤っていました。

一方、75歳の女性は「われわれは望まない戦いに関わってしまっています。もし反撃すればイスラエルは再び対抗措置を取るでしょう。戦争に突入してほしくないのでイラン政府には反撃しないでほしいです。常に不安を抱えるような状況であってはなりません」と心配そうに話していました。

イランとイスラエル 対立の経緯

激しく対立するイランとイスラエルは、かつてイランが親米国家だった王政時代には友好的な関係にありました。

しかし1979年のイスラム革命で宗教指導者が統治する今の体制を確立して以来、イランはイスラエルをイスラム教の聖地でもあるエルサレムを奪った敵とみなして国家としても認めていません。

これに対しイスラエルも、イランがパレスチナのイスラム組織ハマスや、レバノンのシーア派組織ヒズボラを支援し、国の安全や存亡を脅かしているとして敵視してきました。

2000年代にイランが核兵器を開発している疑惑が持ち上がると、イスラエルは、イランの核開発を阻止する動きを強め、対立は一層先鋭化しました。

近年は双方によるとみられる暗殺や攻撃が相次ぎ、「シャドー・ウォー=影の戦争」とも呼ばれる状態が続いてきました。

イランでは2020年、核開発を指揮してきた研究者が何者かに殺害されたうえ、核関連施設での火災などがたびたび起き、イラン側はいずれもイスラエルの犯行だと主張しました。

一方、近海のオマーン湾ではイスラエルの企業や経営者が関わる船舶が相次いで攻撃され、イランによる報復と見られています。

去年10月、ガザ地区でイスラエルとハマスの戦闘が始まると、対立はさらに深まり、イスラエルは隣国シリアにあるイランの軍事精鋭部隊・革命防衛隊の拠点などへの攻撃を強めました。

そして、ことし4月には、イスラエルによるとみられる攻撃でシリアにあるイラン大使館が破壊され、革命防衛隊の司令官らが殺害されました。

これに対しイランはおよそ2週間後に報復としてミサイルや無人機を使い、初めてイスラエルへの直接攻撃に踏み切りました。

その6日後にはイラン中部の空軍基地の付近で爆発があり、イスラエルによる対抗措置とみられています。

ただ、双方の被害は限定的だったとされ、それ以上の攻撃の応酬には至らず、互いに大規模な紛争に発展するのは避けたい思惑があるとみられていました。

しかし、ことし7月にハマスのハニーヤ最高幹部が訪問先のイランの首都テヘランで殺害され、イランはイスラエルへの攻撃だとして報復を宣言します。

さらに9月27日にイスラエル軍によるレバノンの首都ベイルート近郊への空爆でヒズボラの最高指導者ナスララ師が殺害されます。

そして10月1日、イランはイスラエルに対し180発を超える弾道ミサイルによる大規模な攻撃を行い、ナスララ師の殺害などへの報復措置だとしています。

これに対し、イスラエルも対抗措置を行うと宣言し、中東の軍事大国の両国のさらなる武力衝突への懸念が高まっていました。

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