◆国際社会の分断をしたたかに利用
昨年12月以来となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を強行した北朝鮮。11月5日の米大統領選を見据えて軍事力を誇示するとともに、批判を受けるロシア派兵から目先をそらさせようとする意図が垣間見える。国際社会の変化と分断をしたたかに利用し、戦力を増強しつつ自国に有利な環境づくりにまい進している。◆米韓国防トップの会談への意識にじむ
「敵どもの危険な核同盟強化の動きや冒険主義的な軍事活動は、われわれの核武力強化の重要性をさらに浮き彫りにしている」。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は、自ら立ち会ったICBM試験をこう正当化した。 発射の数時間前、オースティン米国防長官と韓国の金龍顕(キムヨンヒョン)国防相がワシントン郊外で定例の安保協議を開き、北朝鮮の核使用を念頭に置いた合同演習実施に合意したばかり。北朝鮮が米韓の動きを意識しているのは間違いない。北朝鮮と韓国の軍事境界線に位置する板門店(資料写真)
米大統領選では、トランプ前大統領がハリス副大統領と激しく競り合う。核保有国認定を受け核軍縮交渉に乗り出したい正恩氏にとって望ましいのは、会談した経験がありくみしやすいトランプ氏の再選だ。米全土に届く1万5000キロ超の射程のICBM発射は「バイデン政権の対北政策の失敗を示し、トランプ陣営に有利な材料になる」(韓国・統一研究院の洪珉先任研究委員)との判断とみられる。◆「派兵への批判的な視線をかわす」目的
異例なのは、ミサイルの発射直後に北朝鮮メディアが事実を報じたことだ。これまでは、翌日に発表するケースがほとんどだった。北韓大学院大の梁茂進(ヤンムジン)教授は「ICBMへの注目を集め、ロシア派兵への批判的な視線をかわす」目的があると分析する。 北朝鮮部隊の一部は既に、前線に投入された可能性が取り沙汰されている。30日の国連安全保障理事会の緊急会合では、米国代表が「部隊がウクライナに入れば遺体袋に入って帰ることになる」と激しく非難。欧州諸国からは、兵器提供や派兵は安保理決議違反で国際法に反するとの指摘が相次いだ。 韓国の情報機関、国家情報院によれば、派兵により北朝鮮の住民や軍人の間で動揺が広がっているという。ICBM発射には国内の不満をそらす狙いもありそうだ。◆最大の移動発射台使い、ミサイルの搭載能力試す?
北朝鮮は今回のミサイルを「世界最強の威力を持つ戦略的抑制力」と強調。最大の移動式発射台(TEL)から打ち上げ、重量の大きい複数弾頭の搭載能力を試したとの見方がある。ロシアのICBM。ロシアの技術支援で北朝鮮のミサイル能力が向上する恐れがある=2022年5月撮影
ICBMの高度化は、2021年に正恩氏が掲げた兵器開発5カ年計画の重要課題の一つ。4年目の終わりを控え、成果を国内外に示す必要がある。 ICBMや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を使用したロシアの29日の軍事演習とも歩調を合わせた形で、ロシアによる技術支援に注目が集まる。「米韓同盟に対抗するロ朝の『核同盟』」(洪氏)の枠組みを誇示しつつ、北朝鮮は軍事技術を着実に向上させている。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。