アメリカ大統領選を巡り、マスメディアの報道スタンスのあり方が議論を呼んでいる。政治の分断が進む中、リベラル系と保守系の色分けが強まり、有権者も自身の主張に沿ったメディアのみを選ぶ傾向が先鋭化。候補者への支持表明を見送った主要紙に対し、失望した支持者が相次ぎ購読を停止する事態も起きている。(ニューヨークで、鈴木龍司、写真も)

27日、米ニューヨークで開かれたトランプ氏の集会の会場周辺には、支持者にマイクとカメラを向けるユーチューバーとみられる若者らの姿が目立った=鈴木龍司撮影

◆相手を支持する報道は「ねつ造」

 「彼らはフェイクニュースに踊らされている」。共和党のトランプ前大統領(78)が27日にニューヨーク市で開いた集会に駆けつけた男性(53)は、会場前で同氏への抗議活動を展開する民主党支援者を「真実が見えていない」と非難した。

共和党大統領候補の指名受諾演説に臨むトランプ氏=7月18日、米ウィスコンシン州ミルウォーキーで、鈴木龍司撮影

 男性は保守系のFOXニュースやトランプ氏寄りとされるニュースマックスを日ごろの情報源に挙げ、ハリス氏への支持を呼びかけるニューヨーク・タイムズ紙などを「捏造(ねつぞう)メディア」と一蹴した。  熱狂的なトランプ氏支持の参加者には、陣営の交流サイト(SNS)や支援者らのユーチューブで情報を入手していると答える人が多く、大手メディアへの不信感も根強かった。会場周辺では一般のメディアに交じって動画を撮影するユーチューバーとみられる若者の姿が目立った。

◆「トランプ配慮」で20万人が解約

 一方で民主党支持者には、保守系メディアが根拠のないトランプ氏の主張やハリス氏をおとしめる虚偽情報を垂れ流しているとの批判が強い。ハリス氏の支援者を取材しようとすると、日本メディアにも警戒感を示し、「リベラル系か?」と論調の説明を求められる機会が少なくない。  ただ、いずれの支持者も、自陣営に批判的な記事はたとえ事実でも受け付けない風潮では共通している。

民主党大統領候補の指名を受諾し、演説するカマラ・ハリス氏=8月22日、米シカゴで、鈴木龍司撮影

 メディアも巻き込んだ政治対立の象徴がリベラル紙への不買運動だ。これまで民主候補を推してきたワシントン・ポスト紙は25日、オーナーでアマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏の判断で支持表明の見送りを発表。米メディアによると、社内で「編集権への介入」との不満が噴き出しただけでなく、3日間で紙媒体と電子版の購読者250万人の8%に当たる20万人が「トランプ氏への配慮」に抗議するなどして解約した。

◆両候補ともSNSでの発信に注力

 西海岸の有力紙ロサンゼルス・タイムズでも、オーナーがハリス氏への支持表明に待ったをかけ、読者の購読停止とスタッフの辞職が相次いでいる。  マスメディアが揺れる中、米調査会社ギャラップが14日に発表した世論調査では、新聞やテレビなどのマスメディアを「信頼している」と回答した人は31%にとどまり、1972年の調査開始以来、最低を記録した。米ニュースサイト、アクシオスは「政治的な党派主義の高まりが信頼度低下の要因」と分析。「ネットやSNSから情報を入手する傾向が強い若い世代に顕著」と指摘した。  接戦の大統領選で両陣営はSNSの発信を強化しており、マスメディアの存在感を含めた選挙戦への影響が注目されている。 

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