米大統領選で勝利した共和党のトランプ前大統領(78)は、大統領経験者として初めて刑事責任を問われ、被告人として出廷しながら選挙を戦った。司法への介入を公然と口にしてきたトランプ氏が大統領への返り咲きを果たしたことで、法治国家が揺らぐことを懸念する声が早くも上がっている。(ワシントン・浅井俊典)

◆四つの刑事事件に問われている

 大統領選の投開票から一夜明けた6日、米メディアは、トランプ氏が起訴された2021年の議会襲撃事件と機密文書持ち出し事件を担当するスミス特別検察官が、起訴の取り下げを含め、どのように事件を終結させるかを司法省幹部と協議していると報じた。  司法省には現職大統領の起訴は控えるとの指針があり、来年1月20日の大統領就任式の前に事件を終結させ、トランプ氏との対立を避けるための動きとみられる。トランプ氏は10月下旬の保守系ラジオ番組で、大統領選で勝利したらスミス氏を「就任から2秒でクビにする」と発言。特別検察官を任免するのは司法長官だが、次期政権の長官はトランプ氏が選ぶため、発言も影響したとされる。  バイデン政権下で、トランプ氏はこのほかに不倫口止め料疑惑に絡む事件、2020年大統領選で南部ジョージア州の結果を覆そうとした選挙介入事件を含め、計四つの刑事事件に問われた。  不倫口止めとジョージア州の事件については、どちらも州法違反のため、大統領の権限が及ばない。このためトランプ氏の弁護団は、大統領在任中の行為は公務であれば免責されるとした7月の連邦最高裁判断を持ち出し、起訴の取り下げなどを求める見通しだ。

◆自身に忠実な人間を司法長官に引き上げる?

 トランプ氏は一連の訴追について「魔女狩り」や「政治的迫害」だと繰り返し非難し、大統領に返り咲けば有罪になっても自らを無罪放免することを検討してきたとされる。弁護団も「当選後」を見据え、異議申し立てや手続きを利用して公判を遅らせてきた。

トランプ氏=2024年7月、鈴木龍司撮影

 訴追について民主党が「選挙に勝つために司法を利用している」と批判してきたトランプ氏だが、大統領就任後は人事などで司法省を自らの意向に沿うようにコントロールする可能性も指摘されている。  ABCテレビは、次期政権の司法長官候補に、機密文書持ち出し事件の起訴を棄却したフロリダ州連邦地裁のアイリーン・キャノン判事が含まれていると報道。自身に忠実な人物を要職に据えて捜査や起訴の方針に影響を与えるのではとの見方がある。

◆議会襲撃で服役した支持者の恩赦まで…

 トランプ氏はさらに、大統領に返り咲けば議会襲撃事件で有罪となり服役している支持者らに恩赦を与えるとも発言。元検事のジョイス・バンス氏はNBCニュースに対し「選挙に勝てば司法の追及を回避できるという考えは、法制度や政治への期待を根本から裏切るものだ」と指摘した。 

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