<連載 ミャンマーの声>
 クーデターを起こし、市民を弾圧するミャンマー国軍に反発し、抵抗運動に加わった軍人たちがいる。国軍は強硬姿勢をやめず、来年総選挙を実施して支配の正当化を目指す中で、どんな思いを抱いているのか。(北川成史、敬称略)  「軍に入ったのは間違いだった」。国軍の元工兵コーテット(34)は悔やむ。ミャンマー北東部シャン州出身。高校卒業後、親の勧めで国軍に入った。10年以上のキャリアを重ねた2021年2月、国軍上層部はクーデターでアウンサンスーチー率いる「国民民主連盟(NLD)」から政権を奪い、市民の抗議活動を兵士に弾圧させた。「多くの市民が兵士の銃撃で殺された。受け入れられなかった」

◆「徴兵し、ろくに訓練せずに前線へ」

 離脱兵を支援する組織にSNSで連絡し、21年9月に国軍を離れ、翌月、民主派の武装組織「PDF(国民防衛隊)」に加わった。

コーテットのあごから肩にかけ、銃弾が貫通した痕が残る=タイで

 国軍と戦う中、2023年4月、東部カイン州で銃撃された。弾は左あごから左肩を貫通。隣国タイの病院で3度の手術を受けた。タイ国内にあるPDF隊員の療養施設で、回復を待ちながら、運営を手伝っている。  故郷のシャン州では今年7月、少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」が、国軍の北東軍管区司令部を占拠したと発表した。ミャンマーに14ある軍管区司令部の占拠は過去に例がない。  「軍の衝撃は大きい。戦意を失い、弱体化している表れだ」とコーテットは指摘する。昨年10月以降、国軍は民主派や少数民族との内戦で劣勢にある。今年2月には徴兵制実施を発表。離脱や死傷による兵力不足を補う目的のようだが、うまくいっていない。「徴兵し、ろくに訓練しないで前線に送っている。武器があっても戦い方が分からない状態。劣勢挽回のため各地で無差別に空爆している」とコーテット。「けがが治ったら前線に戻り、新しい国をつくるため、戦いたい」と話す。

◆「総司令官の権力保持のために戦っても命の無駄」

 将校だったカウンサン(37)も昨年、国軍を離れた。「軍はやってはならない過ちを犯した」とクーデターを非難する。  ミンアウンフライン総司令官は、NLDが大勝した20年11月の総選挙での不正をクーデターの理由に挙げた。カウンサンは「あまりのうそに悲しくなった。軍人を含め大勢がNLDに投票したのは間違いない」と力を込める。NLD幹部を強引に拘束し、市民を弾圧する国軍上層部の手法に嫌気が差し、離脱。その後、国軍を抜けた兵士らの支援などに関わってきた。

ミャンマーのヤンゴン中心部(資料写真)

 「離脱は最近も収まっていない。タイの国境地帯に逃れた軍人だけでも、5000人ぐらいにはなっているだろう」とカウンサンは見積もる。「総司令官の権力保持のために戦っても命の無駄だと、みんな分かっているからだ」

◆「選挙に反対し、はっきりと市民の側を支援して」

 国軍は20年の総選挙を無効とし、新たな総選挙を来年実施するため、10月、国勢調査を始めた。だが、民主派側が国土の6割以上を押さえたと主張する状況で順調に進んでいない。  カウンサンは国軍がもくろむ総選挙を「ヘビの脱皮と同じ。民政を装っても実態は軍支配のまま」と切り捨てる。「軍は選挙をやって新政権を作り、後ろ盾の中国などに認めてもらって統治を続けるつもりだ。だが、選挙を実施できるのは国土の半分以下だろう。正当といえる代物ではない」  そして日本を含めた国際社会に注文する。「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか。選挙に反対し、はっきりと市民の側を支援してほしい。曖昧な態度をとっていると、軍が勝手に政権をつくり、民主派や少数民族は受け入れず、内戦が長期化するだけだ」 

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