「フランスは自分にチャンスを与えてくれた」建築家・坂茂さんがこう語るのは、奇抜な外観で知られるパリのポンピドーセンターの分館の設計コンペを勝ち取ったからだ。今や、革新的なデザインを生み出す建築家として世界に知られるようになったShigeru Ban。その道のりにはいくつもの貴重な出会いがあった。
今年の高松宮殿下記念世界文化賞の建築部門を受賞する坂さんが設計したポンピドーセンターの分館はパリからTGV(高速鉄道)で1時間半のメスという街にある。フランスの国の形が六角形に似ていて、色々なところにフランスのシンボルとして使われていることから、シンボリックな建物を、と上から屋根を見ると六角形になっているそうだ。
「フランスは自分にチャンスを与えてくれた」
坂さん:
僕は2003年にポンピドゥー・センター メスのコンペに応募しましたが、それまで美術館を設計したことなかったのです。日本ではそういう経験のない人は多分コンペにも参加できないですよね。でも、そういう自分にフランスはチャンスを与えてくれたのです。
坂さん:
屋根は三次元曲面の木造です。法規的にも技術的にも日本では作れないもので、ヨーロッパでも非常に新しい考え方だったのですが、チャレンジして作りました。屋根のデザインのアイデアは伝統的なアジアの竹を編んだ帽子から来ています。金属のジョイントを一切使わず、竹を編むようにオーバーラップさせながら、木を三次局面でこの形を作っています。
「その材料でしかできない建築を造りたい」
坂さん:
木っていうのは自然の材料ですから、木の繊維の方向もありますし、水にも弱いですし、いろんな弱さがあるわけです。ですけども、その制限の中でその特性を生かすことによって、その材料でしかできない建築を造りたい、空間を作りたいと考えています。
僕は木でしか作れないものを作りたい。このポンピドゥー・センター メスの屋根は、木でしか作れません。普通、木は縦方向に使うのですが水平に寝かせることによって三次元曲線を作りやすくしています。
坂さんはポンピドゥー・センター メス建設の準備のためにパリに事務所を作ったが、フランスでまたもや経験のない音楽ホールの設計を勝ち取った。「パリの西の玄関にふさわしいモニュメンタルな建築物」がコンペの条件だったラ・セーヌ・ミュジカルである。
坂さん:
音楽ホールのラ・セーヌ・ミュジカルをパリに設計しましたが、こちらも、それまで音楽ホールを設計したことはなかったのに、コンペに選んでくれて実現させてもらえました。これは本当に日本にはないことです。
ラ・セーヌ・ミュジカルは文字通り、セーヌ川の島にあり、卵形の音楽ホールは帆のような形をした太陽光パネルで覆われており、発電効率をあげるように太陽を追いかけてスライドするようになっている。見た目が実に斬新だが、これが時間によって姿を変えるのだから、ますますワクワクする建築物である。
坂さんが世界での戦いかたを教わったのは、アメリカの大学を休学し、事務所で働せてもらった磯崎新さんだと言う。
世界での戦い方を教えてもらった磯崎新氏
坂さん:
丹下健三さんの時代は日本で公共の大きな仕事をたくさんやることによって世界で有名になったのに対して、磯崎さんは、多分初めて世界の超一流の建築家とコンペで戦って勝ち抜いて、世界で地位を名声を獲得した最初だと思うのです。ですから、僕はそういう磯崎さんの建築家としての生きざまというか、世界での戦い方を学ばせてもらったと思います。
坂さんは世界文化賞を受賞するにあたって「この賞をもらって特にうれしいのは世界で尊敬する3人の方が過去に受賞されていること」と語っていたが、その3人とのつながりを聞いた。
1人目は2011年に音楽部門で受賞した小澤征爾さん。坂さんがパリの事務所で遅くまで仕事していたときに、知人から「小澤さんがパリに来ているので一緒にご飯を食べませんか?」という誘いがあり、昔からのファンだったので、大喜びで行ったそうだ。
人間力がずば抜けていた小澤征爾さん
坂さん:
お互いラグビーをやっていたこともあり、最初から意気投合しました。日本で行われたラグビーのワールドカップも一緒に見に行きました。
小澤さんは今まで会った人の中で人間的な魅力がもうずば抜けてますよね。普通は有名になったりすると、みんなだんだん人の言うことを聞かなくなったりしますけど、あの方はあれだけの人でも本当に謙虚でチャーミングで、誰とでも気軽に話すし、やはりそういう人が世界を魅了してオーケストラをまとめていくのだなと感じ、自分も建築家として少しでもそうなっていきたいなという目標の人でした。
2人目は2005年に彫刻部門で受賞したファッションデザイナーの三宅一生さん。三宅さんは平たく折り畳める服を開発していて、紙管(しかん)という独自の素材、システムを開発した坂さんと通じるものがあった。
チャンスをもらい、育ててもらった三宅一生さん
坂さん:
三宅さんは、紙の建築が世に出る前から彼のギャラリーを紙管で設計させていただいたり、パリコレクションの舞台設計もやらせていただいたり、そういうチャンスをもらって育てていただきました。
三宅さんが他のデザイナーと何が違うかっていうと、彼は素材の開発をしたり、作り方、工法、いろいろな新しい最新の技術を使って、新しい布だったら新しい洋服の作り方を開発してたことです。僕の興味とまったく同じでした。しかも、世界的に活躍されていながら、非常に謙虚な方ですし、人間性も素晴らしいし、そういう意味で本当に三宅さんの仕事をさせていただいて知り合えたことは、僕の今、建築家としての大きな力になってます。
建築家の師はフライ・オットーさん
3人目は2006年に建築部門で受賞したドイツ人建築家のフライ・オットーさん。坂さんが学生時代から憧れていて、ハノーバー万博の日本館を作るときに協力してもらったのが縁だ。
坂さん:
オットーさんのアトリエでのハノーバー博の打ち合わせは夢のような時間で、たくさんのことを学びました。僕はそれまで住宅とか小さいものは紙管で造ってましたが、大きなものは造ってなくて、オットーさんが細い木を組み合わせて巨大なシェルを造っていたので、紙管で巨大なシェルを造るノウハウを得ることができました。
同じ芸術でも、絵画、彫刻、建築、音楽、映画・演劇というまったく異なる5つの部門に共通した世界文化賞ならではの話である。
坂さん:
こういう3人の方が過去に受賞している賞をいただいた、ということは信じられないことです。
こう語る坂さんに次世代を担う若者へのメッセージを聞いた。
坂さん:
僕は特に日本人の学生とか若い人に言うのは、旅をしなきゃいけない、ということです。それから留学してほしいです。僕がアメリカにいるときは、アジアで日本人が一番多かったんですけども、今は中国人の30分の1ぐらい、韓国人の5分の1から10分の1ぐらいしかいないです。
日本は世界に依存しないと成り立たない国ですから、世界を平和にしていかなかったら日本の将来の平和なんてあり得ないのです。ですから、若い人は日本みたいな安心なところで生活するのではなくて、もっと世界に出ていくべきだと考えています。
第35回高松宮殿下記念世界文化賞」の授賞式は11月19日、東京都内で開催される。
坂さんと共に世界文化賞を受賞したソフィ・カルさん(絵画)、ドリス・サルセドさん(彫刻部門)、マリア・ジョアン・ピレシュさん(音楽部門)、アン・リーさん(演劇・映像部門)のみなさん5人をフィーチャーした特別番組が2つ放送される。
「世界文化賞まもなく授賞式SP」
11月19日 14:45-15:45 フジテレビ系列(一部の地域を除く)
「第35回高松宮殿下記念世界文化賞」
12月13日 24:55-25:55 フジテレビ(関東ローカル)
12月14日 10:00-11:00 BSフジ
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