アメリカの大統領選挙は、大接戦も予想されていたが、勝敗を左右する激戦州で早々にトランプ氏が優勢になり、6日未明には勝利宣言まで突き進んだ。

勝因は様々に分析されているが、トランプ氏を「MAGA(マガ)」と呼ばれる岩盤支持層が、2020年の大統領選挙の敗北後も、根強く支えてきたことも大きい。

トランプ氏の集会には熱烈な支持者が集まる
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今回、激戦州の1つと見られていた南部ジョージア州で、トランプ氏への投票率が2020年は唯一90%を超え、今回の選挙でも91%を超えた“トランプタウン”とも言える地域を取材した。

トランプ氏の支持者を「盲目的だ」などと揶揄する声も挙がるが、それは本質ではないと私は長く感じていた。取材を通じて多くのMAGAに分類される支持者に会ってきたが、彼らには彼らのトランプ氏を支持する明確な理由があった。

トランプ氏への投票を呼びかける人達(ジョージア州)

改めてトランプ氏の熱烈な支持者はどのような地域に住み、どのような「層」なのか、トランプ氏に何を期待したのか、話をじっくり聞いてみた。

激戦州でトランプ氏に「支持率90%超」

今回の選挙で7つの激戦とされた州の1つ、ジョージア州のブラントリー郡は、人口約1万8000人、人種の構成は白人が90%以上を占め、大学卒業以上の学歴を持つ人は約10%だ。年収の中央値は4万ドル(日本円で600万円)ほどで、全米の平均を下回る。

ジョージア州のブラントリー郡

この地域に注目したのは、2020年の大統領選挙でジョージア州で唯一、投票者の90%以上(90.2)がトランプ氏に投票したからだ。今回の選挙ではさらに91.1%と得票率を伸ばしている。

町の食料品価格は2倍、子育て家庭はローンに苦慮

ブラントリー郡に近づくと、至るところにトランプ氏への支持を示す、「ヤードサイン」があることに気付く。

トランプ氏への支持を示すヤードサイン

この町で最初に出会ったのは、1880年頃からこの地域に住む一族の1人で、ブティック経営者のキャシー・ヘンドリックスさんだ。ブティックでは、自作のトランプグッズも販売していた。「私は大のトランプ支持者」と強調すると、支持の理由を4年間の町の変化と答えた。

ブティックを経営するキャシー・ヘンドリックスさん

「食料品代は4年前の2倍以上。経済状況は非常に悪化し、多くの企業が閉鎖を余儀なくされた。子どもがいる家庭では、両親が共働きで家計を支え、住宅ローンや車のローンの支払いに苦労している」。また、トランプ氏が大統領時代の方が町の経済は良く、高齢者や退役軍人への支援も充実していたと指摘する。

ブティックではトランプグッズも販売

一方、彼女は「トランプ氏の全てに賛成しているわけではない」とも釘を刺す。トランプ氏の暴言に不快になることもあるというのだ。しかし、彼女は「それでもトランプ氏は正しいことをしていると信じている」と話していた。

「産業がない、信号機も1つだけ」 生活の安定を求める

ヘンドリックスさんの紹介を受けて、次に向かったのは町の美容院。まず答えてくれたのは、この町で結婚して38年。1歳と2歳の孫もいるというマリアン・ストリックランドさん(62)だ。「トランプ氏を100%支持している」と明言し、「ここ数年で経済的に苦しい人が沢山でてきた」と町の状況を説明してくれた。

ストリックランドさんは町での生活の苦しさを説明してくれた

さらに「町に産業がない」とも嘆く。住民の多くは、100キロも離れた大きな町に仕事に出ることを余儀なくされ、ガソリン代もばかにならないという。さらに「町には小さな食料品店が1軒。信号機も1カ所。地元の食料品店の値段は法外だ」と不満を漏らす。

町で信号機が設置された唯一の交差点

地域やコミュニティーに「感謝している」としつつも、「多くの変化が必要だ」として、トランプ氏が必要だと強調した。

また、ハティ・アレンさん(72)は、「この国を救ってくれる誰かが必要だ。私はトランプならそれができると思う」と続ける。彼女も生活への不安を理由として挙げた。

アレンさんは「もう快適に暮らせない」と嘆く

「経済はひどい状況で、もう快適に暮らすことはできない。あらゆる出費を気にしなければならない」

髪の毛をブロー中のホリー・ウッドラフさん(69歳)も会話に参加すると、トランプ氏を支持する最大の理由を「経済」と断言した。

ウッドラフさんはバイデン政権を厳しく批判

そして、バイデン政権とハリス副大統領を「3年半で彼らは私たちの国を破壊した」と批判した。

警察官も「トランプ支持」 若者は「家を買いたくても買えない」

美容院から次の取材に向かう途中で出会ったのは、勤務中の警察官ラリー・チャンピオンさん(24)だ。警察官は取材に応じないことが多いが、彼は堂々と「トランプ支持者だ」と明言した。

警察官のチャンピオンさんはトランプ支持を明言

彼もまた、生活の苦しさを挙げ、「私たちのために、トランプが何とかしてくれる」と期待する。一方、別の視点からも支持する理由があるという。

1つは、彼は黒人だが、「民主党は私たちを分断しようとしている」と指摘し、「黒人は民主党、白人は共和党であるべきだと考えている」と不満を示した。トランプ氏が分断を煽っていると批判される事は多いが、彼はむしろ民主党側こそ、分断を生み出す原因があると批判する。

トランプ氏は警察予算の増額など治安対策も訴えていた

2つ目にトランプ氏が、警察や治安の予算を増やすことを明言していることを挙げ「トランプは警察の味方だ。非常に協力的だ」と強調した。

その後に訪れた、自動車修理工場では、ブレイク・クレランドさん(21)が迎えてくれた。

クレランドさんの工場は何度も破産しかけたという

「上手く言えないけど、トランプを信用している以外にはない」と彼は話し始めると、「中小企業を経営しているが、ハリスよりもトランプの政策をより必要としている」と付け加えた。

また、「遅くとも2年以内には家を買いたいと思っているのが、今の価格では確実に無理だ」と嘆いた。バイデン政権の4年間のうち、修理工場は何度か破産の危機に陥ったが、ギリギリのところで持ちこたえているという。彼もまた、トランプ氏に経済的な「変化」を求めていた。

期日前投票所にはトランプ支持が続々・・・

さらに期日前投票所に行ってみると、1日に500人ほどが投票を行い、ほとんどトランプ氏に投票しているという。実際に私たちも2時間ほど滞在して話を聞いたが、全員がトランプ氏に投票したと答えた。また理由については、ほぼ全ての人が「4年前との生活の変化」を理由に挙げた。

インタビューに答えた全員が「トランプ氏に投票した」と明言

選挙の終盤戦、トランプ氏は演説で「4年前よりも今の方が良い状況か?」と冒頭に聞き、聴衆からの「ノー!」との大合唱を聞いてから、話し始めていた。

トランプ氏は「4年前」との生活の違いを訴えた

アメリカ経済はマクロ的には好調とも言われるが、現地で生活する身としては、生活費がとにかく高いのは痛感する。ハリス氏よりも、その実感をトランプ氏はよりすくい上げて聴衆に訴えていた。

さらにもう1つ、トランプ氏を支持する理由として「ビジネスマン」「政治家ではない」「他の政治家と違う」との声も多く聞かれた。日本でも「永田町の常識は世間の非常識」と揶揄する言葉もあるが、政府中央の「エリート政治家」や、首都ワシントンやニューヨークの特権階級層への不信感が増幅されていた。権力闘争や、利権構造にまみれた既存の政治家よりも、ビジネスマンのトランプ氏の方が良いとの意見は、これまでも多く聞かれたことだ。

16歳の少女 「投票権があればトランプ氏に」

最後に訪れた場所は、豚や牛などの家畜や干草や木材を生産する農場だ。

農場では品評会に出す豚も飼育していた

案内してくれたのは、農場の8代目となるコーラ・クルーズさん(16)だ。普段は町の外の学校に午前8時から午後1時半まで通い、その後農場の仕事をしているという。

農場の8代目になる16歳のコーラ・クルーズさん

父親のステファン・クルーズさん(42)は「経費はほぼ倍増。商品は同じ値段のまま」と利益がほとんど出ないと話してくれた

父親のステファン・クルーズさんは経費の増加を嘆く

コーラさんも「あらゆるものが値上がりしている」と指摘する。さらに、「学校へ毎週通うためにトラックにガソリンを入れると80ドル(約1万2000円)かかる」と教えてくれた。

「家族の土地がなければ、家を建てたり、一から事業を立ち上げたりする余裕はない。将来が約束されているわけではない。変化が必要だ」と彼女も強調する。

農場では牛、豚の飼育に木材の生産も行っている

彼女の将来の夢は、この農場を継いで、家族を持ち、子どもを育てたいという。今は未成年で投票権がない彼女だが、もし投票できるなら誰を支持するのか聞いてみると、次のように答えた。

コーラ・クルーズさんは投票権を持っていたら「トランプ氏に入れる」と話していた

「ここ数年の個人的な経験から、トランプ氏を支持するのが最も論理的だ。完璧な人間などいないが、彼が大統領だった4年間は、農業界にはより画期的なことが多くあった」

取材を通じて、トランプ氏を支持する人の中には個性的な人や熱烈な人も多くいる一方で、自分たちの暮らしの改善、既存の政治家への不信感、そして現状からの「変化」を強く求める、普通に暮らしている人達の怒りも多く聞くことができた。

トランプ氏は選挙戦の間に、様々な公約を訴えてきたが、2025年1月20日の大統領就任式を経て、新政権でこうした国民の声に応えることができるのか。その手腕も問われることになりそうだ。
【取材・執筆:FNNワシントン支局 中西孝介】

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