【ワシントン=芦塚智子】米議会の超党派諮問委員会は19日、中国の軍事力や経済に関する年次報告書(2024年版)を公表した。議会に中国の「恒久的最恵国待遇(PNTR)」を取り消すよう初めて勧告した。中国の貿易慣行を不公平と批判する共和党議員が最恵国待遇を取り消す法案をすでに提出しており、勧告が追い風になる可能性がある。
報告書は、民主、共和両党が指名した元政府高官や有識者らでつくる米中経済安全保障再考委員会(USCC)がまとめた。
中国が知的財産の侵害や市場操作といった行為をしているにもかかわらず、最恵国待遇によって米国の同盟国と同じ条件の恩恵を受けていると批判。撤廃は、米国が中国に不公平な貿易慣行を改めさせるための影響力を増す効果があると指摘した。
同委員会は22年の報告書で最恵国待遇の停止に向けた手続きを提言していたが、今回はさらに踏み込んだ。委員の1人は中国の世界貿易機関(WTO)加盟から23年になると指摘した上で「中国が加盟の際の約束を守ることは恐らくないと想定するのが妥当だろう」と理由を説明した。
米議会は00年に中国のWTO加盟に向けて最恵国待遇の付与を可決した。下院中国特別委員会のムーレナー委員長(共和)は14日、待遇を取り消す法案を提出したと発表した。上院でも、トランプ次期大統領が国務長官に起用すると発表した共和のルビオ上院議員らが同様の法案を出している。共和が上下両院で多数派となる25年1月招集の新議会で可決される可能性がある。
最恵国待遇を取り消すと、輸入相手として北朝鮮やキューバといった敵対国と同様に扱うことになり、関税が大幅に上がる。
また報告書は、中国が人工知能(AI)や量子技術、バイオ技術、電池などの重要な新興技術の研究を優先課題とし、米国と中国が「互角の勝負」を展開していると分析した。議会に対し、最先端の万能型AI「汎用人工知能(AGI)」能力の保有を実現するための大規模な計画を立ち上げ、予算を付けるよう提言した。
中国向けの軍民両用品などの輸出規制について、同盟国同士の調整不足や順守を巡る課題、むらのある執行といった多くの運用上の問題が効果を弱めていると指摘。関係省庁や機関でつくるタスクフォースの設立を促した。
「現在、中国が差し迫った戦争のための準備を進めているという証拠はない」としたうえで、中国による国防動員体制によって「中国が平時やグレーゾーン事態から実際の武力衝突への移行に必要とする時間が短くなった」と警告した。
中国が差し迫った紛争に備えているという軍事以外の兆候を正確に察知する米情報機関の能力について、国家情報長官室が180日以内に評価を実施し、議会に報告するよう求めた。監視対象の例として、中国のエネルギー備蓄の状況や、民間から軍事への生産の移行などを挙げた。
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