アメリカのメディア「ブルームバーグ」は20日、欧米当局者の話として、ウクライナ軍がイギリスから供与された「ストームシャドー」を使って初めてロシア領を攻撃したと伝えました。

当局者は、ロシアがウクライナ軍との戦闘に北朝鮮から派遣された部隊を投入したことへの対応だとしています。

また、イギリスの新聞「テレグラフ」は、ウクライナ軍が越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州の村で「ストームシャドー」の破片が見つかったと伝えています。

クルスク州の知事はSNSに「20日午後、ウクライナ軍のミサイル2発を迎撃した」と投稿しましたが、ミサイルの種類には言及していません。

「ストームシャドー」は射程が250キロ以上ある巡航ミサイルで、アメリカによる航行情報の提供が必要なため、イギリスはロシア領内への使用についてバイデン政権の承認を求めていたとされています。

イギリスのヒーリー国防相は20日、議会で詳細については説明できないとしながらも「ウクライナ軍の戦場での行動がすべてを物語っている」と述べました。

射程の長いミサイルをめぐっては、ロシア国防省が19日、西部ブリャンスク州にアメリカ製のATACMSによる攻撃があったと発表したばかりです。

ロシアのラブロフ外相は「プーチン大統領は、射程の長いミサイルの使用が承認されれば、われわれの立場がどう変化するかについても警告した」とけん制していて、ロシア側は欧米への対決姿勢を一層強める構えです。

「ストームシャドー」とは

「ストームシャドー」はイギリスとフランスが共同開発した空中発射型の巡航ミサイルで、フランスでは「スカルプ」という名前で知られています。

製造会社によりますと、重さが1300キロ、長さが5.1メートル、射程は250キロ以上あります。

戦闘機から発射されたあとレーダーで探知されにくくするため、地表付近まで高度を下げ飛行するのが特徴で、GPSのほか内蔵されたセンサーや赤外線監視装置を使い、夜間や悪天候でも高い精度で標的に命中させることができるとしています。

また、厚い装甲やコンクリートなどを突き破ったあとに爆発する弾頭を備えていて、地下の軍事施設や格納された航空機などを破壊することができるとしています。

イギリスとフランスのほかイタリア空軍などが運用していて、これまでにイラクやリビア、それにシリアなどで使われました。

ウクライナには2023年5月からイギリスが供与を始め、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアにあるロシア黒海艦隊の司令部への攻撃などに使われてきたとされています。

イギリスの公共放送BBCは、「ストームシャドー」の価格は1発が100万ドル近く、日本円にして1億5000万円以上と高価なことから、ウクライナ軍は最大の効果をあげるため、大量の無人機による攻撃で敵の防空システムをあらかじめ混乱させた上で発射するケースが多いと伝えています。

専門家 “ウクライナには大きな利点も 戦況は大きく変わらず”

イギリスのシンクタンク、チャタムハウス=王立国際問題研究所でロシアを専門に研究するキア・ジャイルズ氏は、ウクライナに供与されたストームシャドーの使用制限が撤廃されたとみられることについて「ウクライナ軍が、ロシア軍の前線のはるか後方にある補給施設や空軍基地を攻撃できるようになる。そうした施設は数百あるとみられている」と述べ、ウクライナの発電所などへの攻撃に利用されているロシア軍の基地を標的にできると指摘しました。

さらに、ロシア軍は物資や戦闘機のさらなる後退を余儀なくされるとした上で「ロシアはウクライナへの攻撃にこれまでより多くの時間とエネルギーが必要になる一方、ウクライナにとっては準備する時間が長くなり、大きな利点となる」と分析しました。

その一方で、戦況への影響については「特定の兵器システムが『ゲームチェンジャー』になるという見方は賢明ではない。ウクライナには膨大な種類の兵器が供与されていて、どれか1つによって戦況全体が大きく変わることはない。必要なのは継続的かつ総合的な支援だ」と述べ、欧米による支援強化のきっかけにするべきだと強調しました。

また、射程の長い兵器の使用制限の撤廃をめぐり、ロシアのプーチン大統領がこれまで核兵器の使用に言及しながら欧米を繰り返しけん制してきたことについては「ストームシャドーはすでにクリミアへの攻撃に使われているため、プーチン大統領の警告はあまり筋が通っていない」と述べ、緊張が直ちに高まる可能性は低いとの見方を示しました。

一方で「欧米各国はロシアが緊張を高めようとしている兆しとしてロシアによる核実験を懸念している。プーチン大統領は、みずからの言動がアメリカの政策に効果的に影響を及ぼし、制約することを理解している」と述べ、プーチン大統領による核の脅しは続くとの見通しを示しました。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。