米国大統領選挙の結果、共和党候補のトランプ氏が勝利した。トランプ氏は、選挙戦の勝敗を分けると言われるペンシルベニアやジョージア、ウィスコンシンやノースカロライナなど7つの激戦州を全勝し、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、226人に留まった民主党候補のハリス副大統領を大差で破った。

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また、トランプ氏の獲得票数は7500万票あまりに達し、自らが出馬した2016年と2020年の大統領選挙の獲得票数を上回る結果となり、議会上院と下院で共和党が過半数を占める「トリプルレッド」と呼ばれる状況となっており、トランプ氏にとっては、この上ない政治環境が整備されることになった。

トランプ氏は、2期目の政権運営となることから、再選のために自らの支持率に気を配る必要がなく、政権人事でも自らに忠誠的なイエスマンを周辺に固めており、2期目は1期目以上にトランプ色が強くなると考えられる。

トランプ政権誕生で日本企業への影響は?

では、第2次トランプ政権の誕生によって、日本企業にはどのような影響が考えられるのか。大統領選挙の結果が出てから2週間あまりとなるが、海外進出企業に対するコンサルティング業務を行なっている筆者の周辺では、“トランプ関税”への懸念が多く聞かれる。

トランプ氏は政権1期目の時、米国の対中貿易赤字を是正する目的で、2018年から4回にわたって3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課す制裁措置を次々に打ち出し、米中の間では貿易摩擦が激化していった。日本企業関係者の間では、トランプ関税による影響を懸念する声が再び広がっているが、トランプ氏は選挙戦の最中から、中国製品に対する関税を一律60%に引き上げると主張しており、実際の関税率がどうなるか不透明な部分もあるが、これは政権発足後に実行に移される可能性が高い。しかし、当然ながらこれは中国企業の製品のみが対象となるのではなく、中国で製品を作り、それを米国へ輸出する日本企業も関税60%の対象となる。

また、トランプ氏はメキシコからの輸入車に対する関税を200%にすると示唆しているが、これもメキシコで自動車を生産し、米国へ輸出する中国企業を意識したものであるものの、トヨタや日産、ホンダといった日本の大手自動車メーカーもメキシコで生産し、米国へ輸出していることから、関税200%の影響を受けることになる。ホンダはメキシコで生産した自動車の8割を米国へ輸出しており、ホンダは既に強い懸念を示している。

さらにトランプ氏は、中国を除く外国製品に対する関税も10%〜20%引き上げると主張しており、日本や欧州など米国の同盟国が適用外になることは考えられず、日本企業はトランプ関税の壁に直面することになろう。冒頭で記したように、2期目は1期目以上にトランプ色が強まることから、タリフマンを自認するトランプ氏は、より大胆な関税措置を発動していくことが懸念される。

“安倍・トランプ関係”と“パートナーとしての日本”

一方、日本企業への影響という視点では、石破・トランプ関係がどうなっていくかも重要である。第2次トランプ政権の対日姿勢については、現時点で不透明な部分が多いが、以下2つの点は明るい材料と言えよう。

1つ目は、“安倍・トランプ関係”である。

8年前の米国大統領選挙でトランプ氏が勝利した際、日本国内では、“アメリカファースト”に徹するトランプ氏と、どう上手く付き合っていけばいいのかと不安の声が広がったが、安倍氏は大統領選直後にトランプ氏をいち早く訪問し、黄金のゴルフクラブを手土産に親睦を深めることに尽力した。それが功を奏し、安倍氏はトランプ氏と会談するたびに共通の趣味であるゴルフで友情を深め、トランプ氏から個人的な信頼を獲得することができ、安倍・トランプ時代は良好な日米関係だった。

トランプ氏は安倍・トランプ時代の日米関係を経験しており、基本的にはそれを2期目に活かしてくると考えられる。

もう1つは、“パートナーとしての日本”である。

バイデン氏は自由や民主主義といった価値や理念を重視する一方、トランプ氏は商取引的なディール外交を基本とし、両者は相容れないように見えるが、対中優位性を確保しようとする野心は変わらない。

米国では議会でも市民の間でも中国警戒論が広がっているが、対中国において、日本は米国にとって代え難い同盟国であり、米国にとって日本の重要性は高まる一方である。これは、“アメリカファースト”に徹するトランプ政権になっても変わらない事実であり、トランプ氏はこの政治力学の変化を意識し、対日関係を重視してくることが考えられる。

石破・トランプ関係の行方について、一部メディアでは石破氏がゴルフ通ではない、相性が合わないのではないかとの見方も上がっているが、石破氏が日米関係は米国にこういった利益をもたらすなどテクニカルなディール外交に努めれば、安倍・トランプ関係ほど友情に満ちたものになる可能性は低くても、基本的には安定した日米関係が継続されるだろう。

石破政権の“長期的安定”が日米関係のカギに

しかし、問題がないわけではない。

今後の日米関係の行方について、石破氏とトランプ氏の関係が上手くいくかも重要であるが、石破政権が長期的に安定した政権運営が可能かどうかという点も見逃せない。安倍・トランプ時代の日米関係が良好だったのは安倍氏の尽力によるものと言えるが、当時の自民党政権が多数与党で、政治的基盤が安定していたという要因もあろう。それによって、トランプ政権と長きにわたって安定した関係を維持することができた。

一方、10月の国政選挙で自民党は大きく議席を失い、自公では過半数を下回り、石破政権は少数与党という政治的基盤が脆弱な状況にある。今後、内政や政局の混乱に追われ、外交で十分な力を発揮できなくなるシナリオは現実的に考えられるが、政権交代の連続のような事態が生じれば、トランプ氏は誰と個人的な信頼関係を作ればいいのかと日本に対して懐疑的になり、それによって、日米関係が悪い方向に舵を切ることが懸念されよう。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】

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