「アメリカじゃ まだまだやれる おれは喜寿」 時事川柳欄への読者の投稿を読んでクスッときた。秋の米大統領選は、バイデン大統領(81)とトランプ前大統領(77)が再び対決する。
バイデン大統領=2023年6月8日、ホワイトハウスで
◆エイジズム(年齢差別)の歴史
ニューヨーク・タイムズ紙が2月に実施した世論調査によると、2020年の前回大統領選でバイデン氏に投票した6割が「高齢過ぎる」と回答した。ケネディ(就任時43歳)、オバマ氏(同47歳)を生んだ国で何も「史上最高齢での就任」を争うことはないだろう。私も正直そう思った。 この川柳を中日新聞に投稿した仁田操さん(76)に会った。聞けば、レーガン大統領が就任した1981年から2年間、ニューヨークに留学。今も国際ニュースに関心を持ち続ける中、冒頭の川柳がさっと浮かんだそうだ。 「強いアメリカ」を掲げたレーガン氏は今、冷戦を終わらせた偉大な大統領として国民に広く愛されている。だが、米国政治に詳しい南山大外国語学部准教授の森山貴仁(たかひと)さんによれば「就任当初はそれほど人気は高くなかった。理由の一つが年齢だった」という。 就任時69歳は当時、歴代最高齢。19世紀に68歳で就任したハリソンに至っては「選挙戦では相手側から、男らしくない、決断力がないとして『granny』(おばあちゃん)と攻撃された」(森山さん)。エイジズム(年齢差別)と性差別が増幅し合って米社会を覆い尽くしてきた歴史がよく分かる。◆「記憶力が落ちても思考力は衰えない」
では「人生100年時代」と言われる今、80歳前後で大統領の激務をこなせるのか。老年学の先駆けで愛知淑徳大健康医療科学部教授の井口昭久さん(80)に聞いてみた。ユーモアあふれるエッセーで知られ、今も同大クリニックで週3回、現役医師として「ほとんどが年下の患者」(井口さん)と向き合っている。 「俺が大統領になれって言われたらちょっと無理だな」。井口さんはそう笑った後、「年を取ったら誰も同じように老化する、80歳過ぎたらみんな認知症が始まる、といった差別や偏見が(年齢論争の)背景にあるんじゃないか」と説明した。 誰もが顔つきが変わり記憶力も低下するが、大切なのは「年を重ねるごとに個人差が広がる」と理解することだという。「記憶力が落ちても思考能力は衰えないし、ベテランは熟考し、むしろ質の高い仕事をするといわれている」◆大事なのは年齢よりも…
年齢をことさらあおることなく、能力と切り離して考えるべきだ、というアドバイスと受け止めた。井口さんの解説に照らせば「問題は年齢ではなく、考え方が若いかどうかだ」というバイデン氏の主張も説得力が増す。 井口さんは「年を取っても変わらないのが性格。むしろ変わったら病気だと思った方がいい」とも語った。確かに多くの人が懸念するバイデン氏の失言癖は今に始まったことではない。 仁田さんは自らの川柳に「若い人にもっと頑張ってほしい」という思いも込めたという。一部激戦州の得票で勝敗が決まる選挙システムは欠陥だらけとはいえ、バイデン、トランプ両氏とも正統なプロセスで大統領候補に選ばれた。若手が将来台頭することに期待しつつ、能力本位の選挙ウオッチを心がけたい。(国際部・岩田仲弘) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。