半導体やグリーンなど、特定産業への投資が世界で増えています。政府が補助金や税額控除で経済を振興する「産業政策」は、新型コロナウイルス禍以降の米国で強まりました。産業政策が北米をどう変えたのか。この問いが企画のテーマとなりました。
西部劇のような荒野が広がる米アリゾナ州は、台湾積体電路製造(TSMC)やインテルの工場建設が進み、活気に満ちていました。「米国は仕事があるところに人が集まる」(タクシー運転手)。年間30万人もの移住がある同地域。雇用の流動性を背景に給与や条件の良い企業に労働者が集まるさまに、米国の産業力の源泉を見ました。
ただ工場建設においては、熊本のTSMCよりも遅れが目立ちます。「台湾の勤勉な働き方が多くの米国人にそぐわない」(半導体技術者)。日本では鹿島が24時間体制で建設にあたり、アリゾナより着工が遅かったにもかかわらず、すでに完成しています。
アリゾナ工場は労務環境への地元建設組合の反発などで、工期が延びています。本格稼働のあとも、米国人従業員との価値観の擦り合わせには時間を要しそうです。
米国の政策はカナダも潤しました。米国との距離の近さや電気自動車(EV)向けの鉱物資源の豊富さを武器に、新たな投資を呼び込みました。それでも好況がいつまで続くか分かりません。トランプ米次期政権の関税引き上げやグリーン政策修正の意向を受け「国内の製造業は大打撃だ」(カナダの大学教授)と不安の声が目立ちました。
米産業政策の裏側には、企業や業界が政治家にルール形成を働きかける「ロビイング」の存在があります。首都ワシントンでは日本企業も複数のロビー拠点を設けていました。「産業政策は享受するだけでなく作らせるものだ」(米ロビイスト)。大産業政策の時代には、企業も政治と無縁ではいられません。
(長尾里穂)
(1)半導体特需、砂漠の街に30万人 150兆円生む米産業政策
米西部アリゾナ州。広大な砂漠の一本道の車窓に、突如、人工的な巨大建造物が現れる。州都のフェニックスから車で30分ほど北にある半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)の先端工場だ。試作ラインを動かしながら2025年からの本格稼働を目指した建設が続く。…記事を読む
(2)黒鉛・リチウム…カナダ潤す「未来の宝」 米EV頼みで暗雲
「これがカナダの未来だ」。黒鉛採掘の新興企業ヌーボー・モンド・グラファイト(NMG)のジュリー・パケ副社長は黒鉛のかけらを拾ってほほ笑んだ。
カナダ第2の都市モントリオールから車で北に3時間走ると、同社の黒鉛鉱山が広がる。…記事を読む
(3)ショールームは米議員のために 日本のロビー費5年で倍
米首都ワシントンの中心部。ホワイトハウスから徒歩数分のビル内に、日本の空調技術を所狭しと並べたショールームのような展示施設がある。ダイキン工業が2023年に新設した「サステナビリティ&イノベーション・センター」だ。…記事を読む
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