アメリカの首都ワシントンにある日本大使公邸で12日、観光交流拡大に向けたイベントが開催された。

日本大使公邸内の茶室につながる廊下
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ワシントンで開催する狙いは、首都に多く住む富裕層の誘致と、政治的な影響力、特にトランプ次期政権の発信力の活用だ。

抹茶を楽しむ人たち

日本政府は、トランプ氏やイーロン・マスク氏のような発信力の高い人物のSNSでの影響力にも期待し、訪日観光客の数を増やすことを目指している。

“ワシントン攻略”観光交流拡大のカギ

12月12日、トランプ次期政権も見据えた観光交流拡大に向けたイベントが大使公邸で開催された。コロナ渦の反動と円安を背景にインバウンド消費額は増加傾向が続いていて、2024年の1年間で過去最高の8兆円が予想され、訪日外国人観光客は3500万人に達すると見込まれている。

政府が目標に掲げる、2030年の訪日外国人観光客6000万人に向けて、2024年の締めくくりの舞台に選んだのが首都ワシントンだった。

大使公邸内の”出店”に行列

今回、日本政府が目を付けたのがワシントンに住む富裕層だ。全米50州と首都ワシントンの一人当たりの年間の名目GDPをみると、ワシントンは全米トップとなる約26万ドルと2位のニューヨーク(11万ドル)の倍以上に上る。これは約3万4000ドルの日本と比べてもその差は歴然だ(IMFと国勢調査局のデータより)。

ホスト役を務めた山田重夫駐米大使

首都攻略の会場となった日本大使公邸には、アメリカ政府関係者や旅行業界などから約300人が招待され、参加者は日本酒や和牛、とんかつ、お寿司、手巻おにぎりなど、数々の日本食に舌鼓を打ち、日本を体感した。ホスト役の山田重夫大使は「観光は旅行以上のものだ。文化や価値観を共有する手段であり、人々をつなぐ重要な架け橋だ」と日本の魅力を紹介した。参加したアメリカ商務省のラーゴ次官は「百聞は一見にしかずだ。日本は何度行っても新しい発見がある」と参加者に呼びかけた。

歴史を満喫できる​穴場的存在…住職ら世界遺産PR

2024年最後のイベントの舞台にメインゲストとして登場したのは、天台宗総本山で世界遺産にも登録されている比叡山延暦寺(滋賀県大津市)の住職だった。延暦寺は天皇家にもゆかりがあり、まさに日本を象徴する寺の一つだ。

延暦寺一山十妙院の山﨑慈明住職

登壇した延暦寺一山十妙院の山﨑慈明住職は、寺の歴史や修行の様子、観光客用の精進料理などを、モニターを使って紹介し観光を超えた日本伝統の雰囲気を味わってほしいとアピールした。

比叡山延暦寺を紹介した山﨑住職

日本政府関係者によると観光客が集中する京都と比較すると県境の滋賀県にある延暦寺は、外国人観光客にとって人込みを避けて歴史を満喫することができる穴場的な存在でもあるという。延暦寺では、2022年から僧侶と歩む行者道の体験や精進料理をモダンにアップグレードするなど富裕層向けの特別体験も実施している。山﨑住職は「延暦寺は観光客誘致のための宣伝を積極的に行ってこなかったが、今回のイベントを機に多くの人に延暦寺を知ってもらい、当地ならではの神秘的な空気を満喫してもらいたい」と期待を寄せた。

トランプ政権発足へ…爆発的な発信力への期待

訪日観光客を増やすためのもう一つの戦略が、SNSの活用だ。特にトランプ次期大統領のような発信力の高い人物に期待を寄せる。

発信力の高いトランプ次期大統領の第二次トランプ政権に期待

2025年1月20日から第二次トランプ政権が発足する。トランプ氏といえば、自身のSNS「TRUTH SOCIAL」を中心に外交、経済政策を昼夜を問わず発信し、国内外がその一挙手一投足に注目する。SNSのフォロワー数は、TRUTH SOCIALが830万人、「X」が9500万人、インスタグラムが2970万人などと爆発的な影響力を誇る。その発信力を観光戦略に取り込めないかという声もあがる。日本政府関係者は「SNSは重要なマーケティングツール。その使い方を熟知しているトランプ氏や側近で実業家のイーロン・マスク氏が発信すれば新たな層の開拓につながる」と語る。

トランプ氏のSNSより

トランプ氏は一次政権で国賓を含め日本を3度訪問し、SNSでもその姿が発信された。現状、トランプ氏が日本を訪問する時期はまだ見通せないが、日本政府関係者は第二次政権発足以降のトランプ氏の日本訪問に大きな期待を寄せている。

実際に2023年のG7広島サミット開催をSNSで知ったのをきっかけに、今年夏、広島や京都、大阪、東京、箱根を1週間の日程で旅行した人もいた。SNSの発信は今や観光需要を最も後押しする存在だ。

日本大使公邸内には企業ブースも設けられた

観光庁によると、2023年の日本の国民1人あたりの年間消費額は135万円で、これを外国人旅行客に換算すると6人分に当たるという。1人の国民が1年間にモノやサービスの購入に充てる金額が、日本を訪れる6人の外国人観光客が消費する額と同じという計算だ。

日本の人口が減少し、経済規模が縮小する中、これを観光需要で下支えし、巻き返しを図っていこうというのが日本政府の国家戦略だ。

2012年、第二次安倍政権が観光立国を掲げた当初、830万人余りだった訪日外国人観光客は、ビザの緩和政策などが功を奏し、その数は今や4倍以上となり、日本の観光立国への道筋ができつつある。安倍政権で観光政策を主導し、2020年の首相就任時には、2030年の訪日外国人観光客6000万人を掲げた当時の菅首相の目標は、前倒しになる勢いだ。

日本大使館の野口透良参事官は「2024年のアメリカからの訪日観光客数はコロナ前の1.5倍と急伸してきた。長く滞在し、観光消費意欲も旺盛な欧米からのインバウンドを定着させていく必要がある。トランプ関税の不透明感はあるが、観光は関税とは直接関係なく十分に円安メリットを活かせる分野だ。日本人がしっかり稼ぎ、日本人の賃金が上がるというサイクルにつなげていけるのではないか」と期待し、胸を躍らせる。「2025年は大阪・関西万博効果あり、インバウンド消費10兆円の大台超えも射程に入る」政府関係者が口にする2025年が幕を開けようとしている。

【執筆:FNNワシントン支局 千田淳一】

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