「これは映画の一場面か」 3日午後10時半前、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣言の一報が入ると、1980年の戒厳令下で多くの民間人が犠牲となった「光州(クァンジュ)事件」の舞台に拠点を置く地方紙の記者らはみな耳を疑った。同時に言論統制で新聞が発行できなくなる危機感に見舞われた。弾圧の苦い記憶が地元の2紙を号外作製に駆り立てた。(光州で、上野実輝彦)
◆「統制される前にニュースを伝えるのが役割」
「光州日報」編集局長の崔権一(チェグォンイル)さん(56)も当初は半信半疑だった。だが宣言する尹氏の映像や、言論統制と違反時の処罰規定が盛り込まれた布告令を見て「現実だと理解した」。ソウル駐在の記者から情報や映像も入り、事態は深刻だと判断。2面刷りの号外発行を決めた。12日、戒厳宣言時の号外発行の過程を説明する崔権一さん(右)と金ヘナさん=上野実輝彦撮影
編集局には、一度帰宅した記者たちが次々と集まった。政治部の金(キム)ヘナさん(24)は光州選出の国会議員に電話をかけ続け、8人中3人から得られたコメントをまとめた。 「国会で戒厳解除を議決できなければ、軍が来て検閲を始める」と思った崔さん。正門を施錠し、社員の出入りは地下の1カ所に限定した。 中堅社員からは「この先は新聞を作れなくなりそうだし、クビにもなりかねない」と号外を4面にするよう訴える意見も出たが、崔さんは「統制される前にニュースを伝えるのが役割」と発行を急いだ。4日午前0時半、7本の記事と国会に突入した軍部隊の写真などを載せた号外が完成。2万部を駅やデモ現場、公共機関などに配布した。◆現代の韓国でそんなことできるか!と実名で
光州事件当時、光州日報の前身である「全南毎日」など地元紙は検閲を受け、事実を報じられなかった。発生2日後の5月20日、全南毎日は「記者一同」の名義で、言論統制に屈した社長宛ての文書を発表した。12日、光州事件当時の新聞について語る崔権一さん。5月21日から6月1日までは発行されなかった=上野実輝彦撮影
「私たちは見た。人が犬のように引きずられて死んでいくのを、...残り 966/1776 文字
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