EUでは先月30日、偽情報対策が不十分でEUの法律に違反している疑いがあるとして、フェイスブックやインスタグラムを運営するIT大手メタへの調査を始めるなど、偽情報の拡散などへの対応を強化しています。
背景にはヨーロッパ議会選挙を来月に控え、ロシアなどが情報操作を行い、選挙に介入しようとしているとして、警戒感が高まっていることがあります。
ことし3月にはチェコ政府が、首都プラハに拠点を置いていたニュースサイト「ボイス・オブ・ヨーロッパ」の運営会社に対し、ロシア寄りの情報操作を行っていたとして、制裁を科しました。
チェコの情報機関によりますと、このニュースサイトはロシアの資金で運営され、内容もロシアに管理されていたということです。
また、ロシアがみずからのプロパガンダを広めるため、このニュースサイトを通じて、ヨーロッパの複数の政治家に金銭を渡していたとしています。
どの政治家がロシアから支払いを受けたのかは明らかにされてはいませんが、EU内ではヨーロッパの政治家が金銭と引き換えにロシアの情報操作に加担していたとして深刻に受け止められています。
チェコのフィアラ首相は会見で「いかにロシアがヨーロッパの民主主義に介入し影響を及ぼそうとしているかを示すものだ」と述べ、警戒感をあらわにしました。
またEUの議長国を務めるベルギーのデクロー首相は「ロシアの目的はロシア寄りの候補者の当選を後押しし、議会内のロシア寄りの声を強めることだ」という見方を示しました。
この疑惑を受けてヨーロッパ議会では、先月急きょ、討論が行われ、発言した議員から「誰がいくら受け取ったのか明らかにすべきだ。偽善者たちによる裏切りだ」とか「この議会にも、ヨーロッパにも、EUを不安定化させる者たちの居場所はない」などと批判の声があがりました。
またベルギー政府は、先月、さらなる外国の介入や偽情報の拡散に備え、EUとしての危機対応がすみやかにできるよう、EUや加盟国の間で情報共有を行う体制をとると発表するなど、警戒感が一層高まっています。
“ロシア寄りの情報操作” 投稿動画の内容は
ロシア寄りの情報操作を行っていたとして、チェコ政府に制裁を科された「ボイス・オブ・ヨーロッパ」は動画投稿サイトに、ヨーロッパ議会議員をはじめ、ヨーロッパ各国の政治家のインタビュー動画を多数投稿していました。
その中では、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの支援の継続に反対する声や、厳しい環境規制などEUの政策に対して否定的な声を伝えていました。
このうち、フランスとオランダ、ドイツの極右や右派の政党に所属するヨーロッパ議会議員が、議会内のスタジオとみられる場所で対談する動画では、出演した議員が「EUはウクライナに巨額の支援をしているがどのように使われているか誰もわからない」とか「平和への最善の道はウクライナが降伏することだ」などと主張していました。
動画は現在は閲覧できなくなっています。
ロシア寄りの各国の政党 支持拡大に利用か
EUや各国が、ロシアの情報操作に神経をとがらせている背景には、主張がロシア寄りだとされている各国の政党などが、EUの政策に対する市民の不満を、みずからの支持拡大に利用しようとしていることへの警戒感があります。
チェコの首都プラハでは、ことし2月、EUの環境政策に反発する農家が抗議行動を行っていたところ、途中から、右派政党の代表やその支持者などが加わり、チェコ政府やEUに反対する集会のようになったということです。
この右派政党は、ウクライナ支援などに反対し「親ロシア的」だとされ、地元メディアは農家の抗議に乗じた動きだとして「親ロシア勢力が農家の抗議行動を乗っ取った」などと報じました。
この右派政党を率いるインドリヒ・ライヒル代表は、NHKの取材に対し、自身は親ロシア的ではなく、チェコの利益を最優先に考えているだけだと主張したうえで「主権国家にはみずからの道を選ぶ権利があり、EUは加盟国に指図すべきではない」と述べ、EUを批判しました。
この政党は先月には、チェコ東部でヨーロッパ議会選挙に向けた集会を開き、EUの気候変動対策やエネルギー政策が市民生活にとって負担になっているなどと主張していました。
集会に参加した人からは「『ロシアは敵だ』と決めつけられ、ロシアからガスを買うのをやめてしまった」とか「まだいろいろな政党を見ているところだが、この政党は国のために何かをしようとしていると思う」などという声が聞かれ、政党の主張が一部の人には受け入れられている様子もうかがえました。
専門家「民主主義は外部からの攻撃には弱い」
ロシアによる情報操作に詳しい、オランダ・ハーグにあるテロ対策国際センターのカツペル・レカウェク上級研究員は「ロシアはヨーロッパと政治的な戦争を行っていると主張している。(武力を伴う)本来の意味での戦争未満なら何をしてもいい、ヨーロッパを弱めることはなんでもプラスだと考えており『ボイス・オブ・ヨーロッパ』を通じた情報操作もそうした試みの1つだ」と述べ、ロシアは国策として情報操作を行っているという認識を示しました。
そして、ヨーロッパの極右や右派の政治家とロシアとの関係については「ロシアそのものへの愛着があるわけではないが、リベラリズムや民主主義、そして西側世界への憎悪が両者を引き付けている。『それらを壊したいか』と言ってくるのは、ロシアだけで、だから協力が成り立つ」と述べ価値観や考え方に共通点があることから、ロシアの情報操作が入り込む余地があると指摘しています。
さらに、EUの政策に対して人々の不満が高まっている現状については「EU内部で意見の不一致があるとき、外部の者にとってはEUを弱めるチャンスとなる。抗議行動などへの参加者が親ロシア的ではないとしても、ロシアの主張を受け入れてしまう人はいるかもしれない。民主主義や開かれた社会は外部からの攻撃には弱いのです」と述べ、EUとして対応のさらなる強化が必要だと訴えました。
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