ブラジルのルラ大統領㊨と握手する岸田首相(3日、ブラジリア)=ロイター

岸田文雄首相が大型連休中の南米訪問で、日本の首相として8年ぶりにブラジルを訪れた。ブラジルは国際社会で発言力を増す新興・途上国「グローバルサウス」を代表する国のひとつで、今年の20カ国・地域(G20)議長国だ。関係強化を評価したい。

気候変動や脱炭素についての協力で一致し、同行企業が重要鉱物を巡る協力を確認した。レアメタルなど脱炭素で需要が膨らむ金属の重要性は増す。豊富な鉱物資源を持つ中南米との結びつきを一段と強める意義は大きい。

「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」など、グローバルサウスも受け入れやすいビジョンを探り、唱え続けることは重要だ。同時に、相手が望む課題解決や実利を見極め、互恵的な関係を深める努力が求められる。

ブラジルのルラ大統領は記者会見で、日本との貿易額が180億ドルから110億ドルに縮小したと指摘して不満をにじませた。

アジアから地理的に離れているが、中南米は鉱物や食料の大供給地であり、有望な成長市場だ。中国は経済力を強みに浸透し、広域経済圏構想「一帯一路」を推進してきた。4月末からアルゼンチン、ペルー、ボリビアの外相が相次いで訪中するなど、南米諸国との外交を活発にしている。

岸田氏はブラジル訪問中に、中国を念頭において「力や威圧ではない信頼に基づく経済関係こそが公正な豊かさにつながる」とスピーチした。その前に訪れたパラグアイは南米で唯一、台湾と外交関係を持つ。アフリカなどと同じく中南米も、中国の影響力拡大を意識せざるを得ない地域だ。日本ならではの協力が問われる。

グローバルサウスとの関係強化で中国をけん制する一方、その中国との対話は細っている。米国は中国と対立しつつも、昨年の首脳会談に続き高官協議を重ねる。欧州もドイツやフランスが中国と首脳外交を展開し、対話に腐心している。地理的に近い日本こそ対話の必要性はより大きいはずだ。

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