イスラエルの攻撃を受けているパレスチナ自治区ガザを「原点の地」とする、映画配給会社社長の関根健次さん(48)=神奈川県藤沢市出身=が、ガザで生きる人々の姿を伝える海外のドキュメンタリー映画の配給を続けている。今月、東京都内で公開の「医学生 ガザへ行く」(2021年)で、昨年の戦闘開始以来3作目。「爆弾の落ちる先に日常があると知ってほしい」と強く訴える。(石原真樹)

今年4月に都内であった「医学生 ガザへ行く」のイベントに登壇した関根健次さん(右)=本人提供

◆正しくないと理解していても「爆弾の開発者になって敵を…」

 大学の卒業旅行で各国を放浪した関根さんが初めてガザを訪れたのは1999年。ぼんやり抱いていた紛争地の印象と異なり、人々は陽気で人懐っこく、子どもたちとすぐに仲良くなった。「君たちの夢は何?」。何げなく尋ねた。多くの子が「人の役に立ちたい」と医師や先生を挙げる中、中学生くらいの男の子は言った。「爆弾の開発者になって多くの敵を殺すこと」

1999年にガザで出会った子どもたち(関根さん提供)

 彼は幼い頃に目の前でおばをイスラエル兵に銃殺されていた。「そのやり方では平和は来ない」と必死に訴えたが、少年は「ケンジの言うことは正しい。でも今の夢を諦めきれない」とほほ笑んだ。  「なぜ彼のような少年が殺すことを夢見なければいけないのか。子どもが子どもらしい夢を描ける世界をつくりたい」。この出会いが、社会課題の解決を仕事にする原点になった。

「ガザ 素顔の日常」のイベントで思いを語る関根さん

 関根さんは、現在経営する配給会社ユナイテッドピープル(福岡県糸島市)の前身となる企業を2002年に創業。非政府組織(NGO)などの支援に取り組んできた。バングラデシュでストリートチルドレンを支援するNGOが作った映画を紹介され、09年に配給事業を開始。作品を見た学生がバングラデシュへボランティアに向かう姿に「映画の力」を実感し、平和や貧困、気候問題などがテーマの映画を配給をしてきた。  昨年10月7日にイスラエル軍とガザを実効支配するイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以降、ユナイテッドピープルは紛争下でたくましく生きるガザ市民を捉えた「ガザ 素顔の日常」(19年)、サーフィンに情熱を注ぐ若者たちを描く「ガザ・サーフ・クラブ」(16年)を配給してきた。

◆戦闘を止められなかったことへの悲しみと憤り

17日公開の映画「医学生 ガザへ行く」のワンシーン

 「医学生 ガザへ行く」は、救急外科医を目指して19年2月から4カ月間ガザに留学したイタリア人医学生のリッカルドさんに密着した。銃撃された市民が次々と運び込まれる医療現場を目の当たりにした医学生は、命を救う医療への思いを深めてゆく。  「爆弾の落ちる先に、私たちと変わらない日常を過ごしている人がいることを、体温を感じられるように伝えたい」。そんな思いで選んだ。  配給は黒子のイメージだが、関根さんは積極的に上映会やイベントを企画する。「医学生 ガザへ行く」の主人公リッカルドさんの連絡先を探し出してオンライン取材し、その様子をインターネットで公開した。ガザを原点に活動してきたのに今回の戦闘を止められなかった―。昨年10月7日にわき上がった怒り、悲しみ、自分への憤りを胸に、全力で前に進む。  「医学生 ガザへ行く」はシネマ・チュプキ・タバタ(東京都北区)で16日から、シネマネコ(同青梅市)で17日から上映。他の作品の上映情報はユナイテッドピープルへ。 

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