2021年に軍事クーデターで実権を握ったミャンマー国軍が2月に徴兵制の実施を発表して以来、対象年齢の若者が国外脱出を急ぐなど混乱が広がっている。パスポートの早期取得には賄賂が必要なため、隣国タイへ密入国する若者も少なくない。徴兵制の発表後に母国を離れ、タイで息を潜めて暮らす若者たちに会った。(バンコク支局・藤川大樹、写真も)

5日、タイ・バンコク近郊で、ミャンマー国軍の徴兵制実施発表後にタイへ逃げてきた男性

◆7人で生活、6人がパスポートなし

 タイの首都バンコク近郊にある2階建ての共同住宅。南京錠で施錠された鉄の扉を開けてもらい、室内へ入ると、計7人のミャンマー人の男女が2階の2部屋で暮らしていた。7人のうち6人はパスポートを所持していないという。  通された部屋に家具はなく、ガランとしていた。窓には洗濯物がかけられ、鍋や飲料水、食材、食器などが床にじか置きされていた。2台の扇風機は回っているものの、蒸し暑い。  「Tシャツ2枚だけ持って家を出て、約1週間かけてタイへ逃げてきた」  徴兵制発表から1カ月後の3月上旬、ミャンマー中部エヤワディ地域の村から2人の仲間と、タイへ逃げてきた元スマートフォン修理業の男性(32)が振り返る。

◆「このままでは戦場に」脱出を決意

 ミャンマー各地で民主派の武装組織や少数民族武装勢力との戦闘が激化する中、国軍は2月10日、18~35歳の男性と18~27歳の女性を主な対象とする徴兵制の実施を発表。男性の村でも徴兵対象者の情報収集が始まり、「このままでは戦場に行かされてしまう」と国外脱出を決めた。家族も反対しなかったという。  ただ、ミャンマーでは現在、パスポートを取得するのは難しいのが現状だ。  正規の手続きでパスポートを取得すると数カ月かかるため、早期に取得したい場合は係官に賄賂を渡さなければならないが、「賄賂を支払うだけの蓄えはなかった」。  エヤワディ地域の村から、最大都市ヤンゴンや東部カイン州の少数民族武装勢力の支配エリアを経由し、国境を流れるモエイ川を渡ってタイへ。タイ警察の監視の目をかいくぐり、この住居にたどり着いた。  一方、7人のうち唯一パスポートを持っていた元専門学校生の男性(22)は3月初めに観光名目で入国し、在留期間が切れた後もタイへ残り不法滞在を続けている。

◆長期化覚悟も、お金は減る一方

5日、タイ・バンコク近郊で、若者たちが共同生活する部屋

 7人はブローカーに1万バーツ(約4万円)を支払い、タイでの一時的な滞在が認められる「ピンクカード」の発給を待つ。「ピンクカードがあれば仕事ができる」と男性。バンコク近郊で働くミャンマー人労働者の日給は「300~400バーツ程度だと聞いている」という。  共同生活している住居は同胞の支援者が無償で提供してくれているが、日々の食費はかかる。卵や空心菜など安い食材を使って節約に努めているものの、ミャンマーから持って来たお金は減る一方だ。内戦がいつ終結するかは見通せず、タイでの生活が長くなることも覚悟している。 

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