あなたのまちの介護保険料は?【全国 介護保険料マップ】
最高額は月額「9249円」に
なければ生活が回らない
大阪市はなぜ高い?
月額1000円、引き下げ?
平均83.4歳だけど…
“主人公は私たちだ”
金額が最も低いのは、東京都小笠原村で3374円。大阪市の9249円と比べると、月額で5875円、年額で7万500円の差になります。全国で最も保険料が高くなった大阪市。背景にはいったい何があるのか?私たちは大阪市に向かいました。
「介護サービスがないと生きていけません…」こう話すのは、大阪市浪速区に住む小林紀代子さん(87)です。
今から10年以上前に介護保険を申請し「要介護1」と認定されて、訪問介護のサービスを受け始めました。30代半ばで夫を亡くしてから、女手一つで3人の子どもを育ててきた小林さん。もともとは活動的でしたが、年を重ねるにつれて病気を患うなど、体が思うように動かせなくなりました。子どもたちは独立して、現在は1人暮らし。ことし2月には転んで腰の骨にひびが入るけがをして、「要介護度」は「1」から「2」に上がりました。
1人で外出することが難しくなり、移動する時は手押し車や車椅子が欠かせません。買い物や掃除、それに入浴。週4回、1回1時間程度、ヘルパーに身のまわりの世話をしてもらわなければ生活は回らないといいます。
小林さんは、年金収入に加え、息子の会社に関わる所得があるため、新たな「介護保険料」は基準額よりも高い、ひと月あたり1万円あまり。また、「介護サービスの自己負担分(1割)」は1万円ほど。さらに、後期高齢者の「医療保険料」も月に2万円あまり支払っています。物価が高騰する中で、保険料の引き上げは“痛手”です。それでも、引き上げはやむを得ないと考えています。
小林さん「もう少々高くなっても、制度だけは絶対にやめてほしくはありませんね。それがないと、私たちは生きられません。ぜいたくできるような暮らしではないけどね、もう今のままで、介護しに来てもらってありがたいなと思って、楽しく生活させてもらっています。やっぱり介護を受けさせて頂きたいなと、それが一番の願いですね」
なぜ大阪市では保険料が高くなってしまうのか?年ごとに市区町村が所得に応じて定めている保険料の額は、・介護が必要な高齢者が多いか少ないか・住民がどれぐらい多くの介護サービスを利用しているかといった要因で変動します。
制度が導入された2000年度(平成12年度)の時点では、大阪市の保険料は3381円でした。しかしその後、高齢化にともなってサービスを利用する人の数が増加。「要介護認定率」は全国平均を8ポイント上回る27.4%に上りました。大阪市の担当者によると、保険料の基準額が上がる要因として、
1 ほかの自治体に比べて1人暮らしの高齢者が多い2 所得が低い人の割合が多い(世帯全員が市民税非課税となる人の割合が全国平均の1.5倍近い「49.3%」)
などがあげられるということです。
大阪市介護保険課 大谷省吾課長「できることは限られているが、必要な人に必要なサービスを利用してもらうことは大前提とした上で、介護を受けずに済む元気な状態を長く維持できるような取り組みを進めたい」
取材していると、中には介護保険料を引き下げたという自治体もありました。大阪市内から電車で1時間あまり、県境を越え高野山の麓に位置する和歌山県橋本市。今回の改定で、保険料の基準額を1000円(6300円→5300円)、率にして15.9%引き下げていました。
橋本市の人口は5万9000人余り。高齢化率は年々上昇し、全国平均よりも高い「33.2%」(厚生労働省の集計時点)。しかし、この10年あまりの間に65歳以上の要介護認定率が、約5ポイント下がったというのです。そのキーパーソンの1人が役場にいました。話を聞かせてくれたのは、いきいき健康課の西早由里(にし・さゆり)さんです。西さんは異動のない専属職員で、18年間継続して地域住民の介護予防の取り組みを支えてきました。
介護予防指導員 西早由里さん「人の異動があると次々担当者が入れ代わって地域の皆さんも混乱すると思うのですが、相談窓口が1本で直接やり取りできますし、何かあれば変化に気づけますので、市役所の中の身近な存在になれたらと思っています」
なぜ認定率は10年間、下がり続けてきたのか。西さんはこの日、地域の人が開いている運動教室を案内してくれました。
参加者は地区のお年寄り17人。みんなおそろいのTシャツを着て、昔ながらの曲に合わせて、ストレッチとトレーニングを繰り返します。休憩を挟みながら、およそ1時間あまり汗を流していました。
参加者の年齢を尋ねると、平均年齢は「83.4歳」。最高齢は93歳でした。しかし、現在、1人も要介護の認定を受けていません。
「楽しみです。1週間待ち遠しい」(18年前の当初から参加している最高齢93歳の男性)
「毎日が元気で、病気知らずです」(一度は介護保険を利用した時期もあった女性)
そんな声が聞こえてきました。
2006年、この地区の住民から始まった運動教室。当初は参加する人も少なく、1年目は5か所しか教室はありませんでした。しかし、次第にクチコミが広がっていき、次々と参加者は増えていきました。
現在は市内54か所にまで広がった運動教室。広く、長く続ける秘けつは何なのか。取材の中で2つのキーワードが浮かんできました。
1 「主人公は住民」運動教室への参加は任意で、運営も地区の住民に任されています。何か困った時には西さんに相談しますが、あくまでサポート役で住民の自発性を大切にするということです。2 「みんながリーダー」多くの教室では、運営を3人一組など、複数人のリーダーが行っていて、リーダーも毎回変わっていくといいます。これにより負担が1人や一部の人に集中せず、また責任を持って参加できるようになるということです。
ちなみに、参加者が来ていたあのTシャツ。実はこれも住民が発案してデザインしたものだそうで、着る人が増えて、今では市内のスポーツショップで取り扱うようになったということです。
順調に広がった介護予防の取り組みも、コロナ禍では一時は中止に。参加者が現在も以前の水準まで戻っていない活動もあり、西さんは新たな市民の参加を促したいと話します。
橋本市 介護予防指導員 西さん「今回は介護保険料を下げることができたんですけど、これから高齢者の方どんどん増えていきますし、人口も減っていくと見込まれます。これまでやってきたことは崩さずに、マンネリ化しないよう新しいことを『一緒にやりませんか』と声かけしていきたいです」
保険料の地域差をどう考えたら良いのか。介護保険制度に詳しい淑徳大学の結城康博教授は、5つのポイントを指摘します。
1「高齢化率」2「要介護認定率」3「低所得者の割合」4「基金(貯金)の有無」5「介護サービスの利用状況」
基金とは、自治体がその年に使わなかった予算を剰余金として積み立てたもので、いわば“貯金”です。取り崩せば保険料引き下げの財源となるが、基金がなければ引き下げは難しくなるといいます。一方、結城教授は、保険料が「高いから悪い」「安いから良い」とは一概に言えないとも指摘します。
結城教授「介護サービスが充実しているならば、保険料が高くなります。いざ介護を利用するときのことを考えれば、高くてもしかたがないと思えるかもしれません。逆に、施設が地域になかったり、住民がサービスを使えなかったりすることで、保険料の伸びが抑えられたところもあるでしょう」
そのうえで、結城教授は住民自身が介護保険制度のあり方を考え、選択することが大切だと話しています。
結城教授「介護保険制度は市民がある程度、目を光らせる制度です。住民の声を反映して、自治体ごとにつくっていく。果たして保険料とサービスが合っているか。その制度は持続可能なものなのか。無関心な人が多い地域は、厳しい介護保険になってしまうでしょう。保険料を負担している市民1人1人の意識が重要だと思います」
住民と行政が共につくり上げていく介護保険制度。“主人公は私たちだ”。そんな意識をもって、もう一度マップを眺めてみると、違った気づきがあるかもしれません。
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