豊田車両センターに並ぶ、組み込み前のグリーン車=東京都日野市で2024年5月16日、渡部直樹撮影
写真一覧

 JR東日本は、2024年度末以降に中央線快速電車や青梅線の一部区間でグリーン車を導入します。着席サービスの提供と、混雑緩和のために導入されるこの車両。基本はこれまでの2階建てグリーン車と同じような設計なのですが、初めて両開きの扉を採用しています。なぜなのでしょうか。実は、その背景にはある名車が隠れていました。東京都日野市の豊田車両センターにお邪魔し、秘密を探ってきました。

 今回投入されるグリーン車は、サロE232形0代、サロE233形0代の2形式です。セットで組み込まれ、これまで10両だった快速電車の基本編成は12両に延びます。

E233系0代グリーン車のリクライニング用ボタン=東京都日野市で2024年5月16日、渡部直樹撮影
写真一覧

 シートはもちろんリクライニング。全席の肘掛けにコンセントがついています。また、1階席には読書灯も。2階の窓がカーブを描き天井近くまで続いているのは、もはや同社の伝統です。中央線では山梨県の大月駅まで走るので、山並みをたっぷりと楽しむことができるでしょう。

 既存車両と大きく異なるのは、両開きの扉を採用したことです。東京駅の中央線乗り場は線路が2本しかなく、最短約2分で折り返しをしています。グリーン車が導入されると、この時間で乗客の乗降、座席の回転、簡易清掃などの業務をすべてこなさなければなりません。総武快速・横須賀線の一部列車が最短約3分30秒で折り返しをしているものの、2分台は経験のない短さです。

E233系0代グリーン車の2階客室=東京都日野市で2024年5月16日、渡部直樹撮影
写真一覧

 そのため同社は、乗客がスムーズに乗り降りするために従来の2階建てグリーン車で81センチだった出入り口の幅を広げようと考えました。ただ、片開きのまま扉を大きくすると開閉に時間がかかります。かといって、開閉速度を速くしすぎるのも危険です。そこで検討されたのが両開きでした。

 実は、同社にはかつて両開きの2階建て車両が一つだけ存在しました。常磐線の混雑緩和を狙って1991年につくられ、06年に廃車となった普通車「クハ415―1901」です。設計担当者たちは、その図面も参考にして設計を進め、開口部1・3メートルの両開き扉を採用しました。

中央線快速電車のグリーン車の参考とされた「クハ415-1901」。筆者が小学5年生の時に撮影したとみられる。悔しいことにピントが外れている……=渡部直樹撮影
写真一覧

 また、この車両では乗り降りをスムーズにするため、階段が直線状になっていました。しかし、それだと座席数が減ってしまいます。混雑路線での着席サービス提供という目的と、乗降をスムーズにするという課題のバランスをとった形が、らせん階段と両開き扉の組み合わせだったのです。

E233系0代グリーン車の階段部分につけられた照明=東京都日野市で2024年5月16日、渡部直樹撮影
写真一覧

 E233系0代グリーン車の設計に携わった志熊俊治さんは実家が常磐線沿線で、クハ415―1901にも乗ったことがあるといいます。「物珍しくて、かっこよかった。こんな特別な車両に大人になってから携われ、誇らしい気持ちになりました」と話します。

 料金形態は現在検討中とのこと。伝統的な設計と、斬新な名車、二つの遺伝子を受け継いだ最高傑作に乗れるのは、もう間もなくです。【写真・文 渡部直樹】

豊田車両センターに並ぶE233系0代のグリーン車=東京都日野市で2024年5月16日、渡部直樹撮影
写真一覧

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。