マダニが媒介する感染症で、致死率の高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の感染報告が拡大している。西日本中心だった感染地域は徐々に東進、昨年の国内の患者数は過去最多を更新した。マダニに刺される以外にもペットが感染ルートとなる事例も報告され、警戒が高まっている。

広がる感染地域

SFTSウイルスを媒介するマダニ(成ダニで3~8ミリほど)は主に森林や草地に生息し、人や動物に取り付くと皮膚に口器を突き刺し、吸血後は10~20ミリほどになる。活動が盛んな春から秋にかけては、刺される危険性が高まる。

SFTSは2011年に中国で報告され、日本では13(平成25)年に患者が確認された。患者は60代以上が多く、高齢者は重症化しやすいが、対症療法が主体。国立感染症研究所によると、致死率は6~30%とされる。

感染地域は山口県や宮崎県など西日本が中心だったが、令和3年に愛知県や静岡県で、4年には富山県で確認されるなど東進を続けている。患者報告のある地域以外でもSFTSウイルスを保有するマダニや感染した動物は見つかっている。

国内の患者は増加傾向で、昨年は前年(118人)を上回る133人と過去最多となった。

ペット通じた感染も

患者は農作業中や林業従事者が目立つが、猫や犬を通じた感染も明らかとなっている。

宮崎県内の動物病院に勤める獣医師の奥山寛子さん(49)は平成30年夏、SFTSに感染。感染の怖さを身をもって知った。

発端は治療していた猫だった。発熱や黄疸(おうだん)症状などのほか、白血球と血小板の減少がみられ、SFTSが疑われていた。

感染につながったとみられるのが、隔離室での処置中。注射の穿刺部位から漏れ出していた点滴液が血液とともに、猫の身震いで飛散。猫の体と床を拭いた。手袋はしていたが、ゴーグルなどは着用していなかった。

猫は飼い主の要望で自宅に戻り、死んだ。その後、SFTS陽性が確認された。

奥山さんに異変が現れたのは猫との接触から10日目のことだった。38度台の発熱と倦怠感(けんたいかん)に襲われた。夜間救急を受診し、医師にこれまでの経緯を説明。血液検査を経て入院措置となり、SFTS陽性が判明した。

高熱に立っていられないほどの強いだるさ…。それでも主治医からはSFTSの患者の中では、「軽症な方だ」といわれた。10日間の入院で回復し、退院。奥山さんは、「今は診療時の感染防護具の装着を心がけている」と語る。

屋外飼育はリスクに

感染研の公表資料によれば、令和4年9月までに、猫560症例、犬36症例がSFTSと確定診断された。発症動物から獣医療従事者への感染は同年7月末時点で10例確認されており、飼い主への直接感染も9例以上確認されているという。

SFTSに詳しい宮崎大の岡林環樹教授は「屋外に出ることのあるペットの猫や犬の場合、マダニに噛まれたり、感染した動物と接触したりして感染してしまうリスクがある」と説明。SFTS以外の感染症をもらってくるリスクを下げるためにも「猫は屋内飼育が望ましい」とし、「犬を散歩する際は虫よけ剤をつけ、帰宅後はマダニがついていないか、チェックする習慣もつけてほしい」と呼びかけている。(三宅陽子)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 主にSFTSウイルスを保有しているマダニに刺されることで感染。感染した猫や犬を通じた感染報告もある。6~14日程度の潜伏期間を経て発熱、倦怠感のほか、嘔吐、腹痛などの消化器症状が表れることが多い。吸血中のマダニに気付いたら、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、体内に病原体が入りやすくなったりする恐れがあるため、速やかに医療機関の皮膚科などで処置を受ける必要がある。

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