次々と生み出されるキャンパスノート

学生時代も、社会人になってからも、誰もが一度は使用したに違いないロングセラー商品「キャンパスノート」。昭和50年の発売以来、累計販売は約35億冊。大半が滋賀県愛荘町にあるコクヨグループの「コクヨ工業滋賀」で製造されており、まさに日本一のノート工場だ。機能性やデザイン性に優れた商品を生み出す最新鋭設備をそろえた工場内に足を踏み入れてみた。

ズレのない罫線

案内してくれたのは同社シニアアドバイザーの水野浩伸さん。まずは歴代のキャンパスノートを展示するコーナーを見せてくれた。記者が学生時代に使用していた見覚えのあるノートも。

「よく『懐かしい』と言われます。どのノートを使っていたかで、その人の年代が分かりますよ」と水野さん。

工場への入り口となる扉のデザインもカラフルなキャンパスノート。扉を開けると、機械製造の大音響が聞こえてくる。面積約2万平方メートルの工場棟には、大小30ほどの機械設備がずらりと並んでいる。

コクヨ工業滋賀の工場。「キャンパスノート」の一大生産拠点だ=滋賀県愛荘町

まず目についたのは巨大な紙のロール。ノートの中紙となる素材で、1本が全長9千メートル。これを高速で巻き上げ、次々と裁断。ノートサイズにしていく。

ノートの中紙となるロール。1本の長さは9千㍍(一部画像処理しています)

裁断とともに、中紙の表面と裏面に罫(けい)線も高速印刷する。印刷された1枚を、光に透かした状態で見せてくれた。表面と裏面の罫線が少しもズレておらず、見事に一致していた。

「ズレはJIS(日本産業規格)では1ミリまで認められていますが、コクヨでは、わずかなズレも許さないこだわりがあります」と水野さん。

独自の無線綴じ

さらに中紙を機械でV字に折り曲げ、ノート状に重ねた後、背表紙部分をのりづけする。

かつてノートは中紙を糸で綴(と)じて1冊のノートにしていたが、コクヨはのりづけする「無線綴じ」の製法を採用。ノートをフラットに開けるほか、強度も兼ね備え、破れたりばらけたりしにくい。

表紙にカラフルなブルーとピンクを採用し、「A」「B」の罫線幅を大胆に表示するなどデザイン性も注目され、昭和50年の発売以来、ノート業界では比較的後発ながらも市場を席巻した。

ロールの紙をノートのサイズに裁断する機械

コクヨの創意工夫の原点といえる「無線綴じ」。のりづけの量が多すぎるとノートが開きにくく、少なすぎると強度が落ちる。そんなギリギリの量を実現しているのが最新鋭の設備で、「心臓部」(水野さん)ともいえる企業秘密だ。

さらに、のりづけ部分を補強する「背クロス」を付ければ、3冊1セットの状態でノートが出てくる。これを3冊に裁断し、包装すれば商品の完成だ。

入念な確認作業

完成品は入念な最終チェックを受ける。

まずは「品質試験室」。取材した日は何人もの女性社員が完成した商品を実際に手でつかみ、黙々とページをめくり、目視で丁寧に確認していた。

品質試験室では実際にページをめくり、目視で確認している

次にノートの強度を確かめる「検査室」。専用の測定器に、表紙部分を上に、中紙1枚を下にして挟み、上下方向に力を加え、強度を数値化して調べる。

わずかな数値の違いも見逃さず、少しでも異変に気付くと、すぐ生産部門に連絡し微調整することも。完成品の強度は、もちろん折り紙付き。「小犬ぐらいの重さならつり下げられます」と水野さんは笑う。

約半世紀のロングセラー「キャンパスノート」

強度をはじめ、機能性やデザイン性などこだわりを1冊に凝縮したキャンパスノート。工場内に大きく書かれた言葉「買う身になって作りましょう」は、まさに現場で実践されていた。

環境保全などユニークなシリーズ展開

コクヨ工業滋賀では、地域貢献の一環として琵琶湖や環境保全などにこだわった「リエデン」シリーズの商品を展開している。

平成19年11月に「リエデンプロジェクト」を発足。「琵琶湖の環境を守る」という理念の下、琵琶湖の環境と関わりの深いヨシの活用に取り組み、環境保全意識を広める商品開発を進めている。これまでにヨシを素材にしたノートやコピー用紙など約130アイテムを開発した。

「リエデン」シリーズの商品

また、現場で働く社員自らが、家族や友人らの声を反映し、すぐに商品を作って商品化する「すぐつくシリーズ」も展開中。

複写伝票の特性をいかしオリジナル新聞が簡単に作成できる「三枚複写の『新聞パッド』」や、植木鉢デザイン入りの方眼罫線で植物観察日記に使いやすい「しょくぶつかんさつノート」など、ユニークな商品を生み出している。(土塚英樹)

工場見学 冬期(12月~翌年2月)を除いて月2回程度実施している。実施日はホームページに掲載。午前の部と午後の部があり、定員は各25人。完全予約制。無料。問い合わせは専用ダイヤル(0749・37・8017)。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。