東京八重洲献血ルームの目の前に広がるJR東京駅=東京都中央区八重洲2で2024年6月12日、千脇康平撮影

 若者の「献血離れ」が進んでいる。日本赤十字社によると、2023年に献血した10~30代は約162万人で、10年前から3割減った。輸血用の血液製剤などの多くは高齢者の医療に使われており、このまま推移すれば安定供給の土台が大きく揺らぐ恐れがある。若年層をどう引き込むか、模索が続く。14日は世界献血者デー。

フロアにコワーキングスペースも

 JR東京駅の眺望が目の前に広がる開放的なフロアに、ゆったりくつろげるリクライニング式の採血ベッドが12台並ぶ。23年5月、高層ビルの一角に開所した日本赤十字社の東京八重洲献血ルーム(完全予約制)。「和モダン」をイメージした空間には、半個室のコワーキングスペースもある。

 長野県に住む50代の女性は、東京都内で用を済ませるついでに予約を入れた。20代で始めて以来、多い時で2週間に1度、最近は月に1度のペースで献血をしている。回数は、この日で210回を数えた。「この血が誰かの役に立つと思うと、生活習慣に気を付けるサイクルが生まれる。若い人と接する機会があれば勧めているけど、強制まではさすがにできないことにもどかしさはありますね」

若年層の献血者数3割減

 献血は、病気の治療や手術で輸血を必要としている人のために健康な人が自らの血液を無償で提供するボランティアのこと。種類によって異なるが、16~69歳を対象とする。全国各地にある献血ルームのほか、企業や学校などを回る献血バスで受け付ける。

若年層の献血者数(2013~2023年)

 長年の課題となっているのが、若年層(10~30代)の献血者数の落ち込みだ。日本赤十字社によると、若年層の献血者数は13年が約242万人だったのに対し、23年は約80万人減の約162万人となった。中高年層(40~60代)は約278万人から約338万人と2割ほど増加したが、若年層が大きく落ち込んだ影響で、総献血者数はこの10年で約520万人から約500万人に減少した。

 最大の要因は少子化だが、こんなことも考えられるという。まず、高校や大学などを対象とした「学校献血」が学校の方針やカリキュラムの変更などを理由に減少傾向にある点。そして、若い世代の興味や関心の多様化だ。担当者は「空いた時間に献血しようという発想や行動から遠ざかりつつあるのではないか」と指摘する。

渋谷でデジタル広告

 ただ、黙って手をこまぬいているわけではない。人気アイドルを起用したり、「進撃の巨人」や「東京リベンジャーズ」、「SPY×FAMILY」といったアニメとコラボレーションしたキャンペーンを展開したり。献血ルームごとにX(ツイッター)のアカウントを開設し、予約の空き状況や輸血を受けた人たちのエピソードといった情報を発信するなどSNS(ネット交流サービス)戦略にも力を入れる。

 「献血について、まずは考えることから始めませんか。」

 東急田園都市線渋谷駅の改札近くの壁に設置された大型のデジタルサイネージ(電子看板、縦約2メートル、幅約25メートル)には、そんなメッセージが浮かび上がる。近くに並ぶ柱形のデジタルサイネージも同様の広告を映し出す。

 日本赤十字社が展開するキャンペーン「THINK!献血」の一環で、10日から1週間続く。献血の普及啓発施策としてこれらのデジタルサイネージを「ジャック」する試みは初という。

 「献血お願いします」ではなく、「まずは献血が身近なものであることを知り、考えていただく」という趣旨の訴えかけには、献血可能年齢に満たない層や、未経験者層にもメッセージを届けたいという狙いがある。

「こんなにゆっくりできるとは」

東京八重洲献血ルームには、間仕切りを設けた半個室タイプやカウンタータイプのコワーキングスペースがある=東京都中央区八重洲2で2024年6月12日、千脇康平撮影

 記者が12日に八重洲献血ルームを訪れると、未経験者の若者の姿もあった。春に社会人になったばかりの会社員の男性(22)は「元々興味はあったけど、気軽に行ける機会がなくて積極的に動けなかった」と打ち明ける。会社の先輩に誘われ時間休を取って足を踏み入れたといい、「こんなにゆっくりできるとは思っていなくて……。次は本を持ってきます」と表情を緩ませた。

 その上で、「仕事でよく言われるのは、足りないものはできる人が補っていかなければならないということ。健康な体であるからこそ供給できると思う。若いうちから、こういう形で貢献したい」と語った。【千脇康平】

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