歯周病の原因菌の1つに抹茶の溶液をテストしたところ4時間で全滅した GRAFVISION/ISTOCK
<抹茶は歯周炎の原因となる口腔内のPg菌を抑えるという研究が発表された。重い病気にもつながる歯周病を防ぐ救世主に?>
あなたのお気に入りの抹茶ラテは、口の中の健康維持に役立っているかもしれない。5月に学会誌「微生物学スペクトラム」に掲載された論文によると、抹茶は歯周炎を抑える可能性があるという。
歯周炎の原因の1つはポルフィロモナス・ジンジバリス菌(Pg菌)だが、この細菌の働きが抹茶によって抑制されることが発見されたのだ。「抹茶は歯周炎の予防と治療に臨床応用できる可能性がある」と、論文は記している。
研究者らは実験で、抹茶の溶液を16種の口腔内細菌に対してテストした。すると2時間でほぼ全てのPg菌が死に、4時間後には全滅した。
その後、45人の歯周炎患者を対象に抹茶マウスウオッシュの効果をテストしたところ、使った人は使わなかった人に比べて、唾液中のPg菌の数値が有意に低くなっていた。
歯周炎は重度の歯周病で、歯茎の炎症が歯を支える構造にまで広がる。治療しなければ歯を失うことも、歯を支える骨を破壊することもある。
食物中の糖分を餌とする細菌によって歯垢(しこう)が形成されていき、これが除去されないと歯と歯茎の間に生じる歯周ポケット内で取りにくい歯石となることがある。Pg菌は、このプロセスに大きく関与する細菌の1つだ。
Pg菌は特定の条件で破壊的に増殖し、歯茎の状態を悪化させる
「Pg菌は歯周ポケットにすみつきやすい」と、歯科の研究で名高いADAフォーサイス研究所のメアリー・エレン・デイビー上級研究員は言う。
「口腔が健康な状態では、Pg菌は検出されても非常に低い数値にとどまる。でも特定の条件下で破壊的に増殖し、歯茎の状態をひどく悪化させかねない。その結果、慢性的な感染と炎症を引き起こし、放置すれば歯が失われる」
歯垢や歯石が付着している時間が長いほど、歯の生え際の歯肉を刺激する。これが歯茎の炎症を引き起こし、歯周炎につながる。こうして生じた歯周ポケットは、歯垢と歯石、細菌で満たされる。
「歯周炎の危険性が歯科と医学で注目を集めているのには理由がある」と、論文の筆頭執筆者である日本の国立感染症研究所の中尾龍馬・主任研究官は本誌に語った。「歯を失う大きな原因だということだけではない。糖尿病や早産、心血管疾患、誤嚥性肺炎、関節リウマチ、認知障害、癌など多くの慢性炎症性疾患と幅広く関連しているためだ」
抹茶の溶液は細菌の外膜を変化させ増殖を抑える
抹茶を含む茶は学名カメリア・シネンシスという植物で、古くから抗菌作用があるといわれてきた。今までの研究で、緑茶は大腸菌のような危険な細菌の増殖を抑制することが分かっている。Pg菌は緑茶の溶液にさらされると、口の中の細胞に付着することが少なくなることも判明している。
「この研究で、抹茶の溶液は細菌の外膜に形態学的・生理学的な変化を及ぼし、増殖を抑制することが分かった」と、中尾は言う。
だが中尾によれば、抹茶の溶液は口腔内に常在する9種の連鎖球菌の増殖は抑制しなかった。特に若い人の歯周炎に関係しているアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンスという細菌に、抹茶の溶液は効かなかった。
研究者らは今回の研究が、歯周病の予防と治療に抹茶をもっと活用するきっかけになることを期待している。
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