がん研有明病院の院長補佐で乳腺内科部長、高野利実医師

がん患者やその家族の疑問や悩みによりそう「がん電話相談」。今回はHER2陽性乳がんで術後薬物療法の選択に悩む40代女性に、がん研有明病院院長補佐で乳腺内科部長の高野利実医師が答えます。

──昨年7月、右乳がんと診断。HER2とホルモン受容体はともに陽性、腫瘍の大きさは1・5センチでリンパ節転移はなく、ステージⅠでした。術前にAC療法(アドリアマイシンとシクロホスファミド)を4コースと、抗がん剤ドセタキセル、抗HER2薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、パージェタ(同ペルツズマブ)の3剤併用療法を4コース受け、12月に右乳房の部分切除術を受けました。

「手術後の病理診断は」

――大きさ1・1センチの浸潤がんで、リンパ節転移はなし。術前薬物療法の効果はありましたが、十分ではなかったと言われました。

「担当医から今後の治療方針を説明されましたか」

──はい。ホルモン療法のタモキシフェン内服を5年間の予定で始めました。加えて、右乳房への放射線治療を16回行い、抗HER2薬のカドサイラ(同トラスツズマブエムタンシン)を投与の予定です。これ以外にも再発を抑える有効な治療があれば全部やりたいと考えています。

「現時点で一番有効とされて標準治療として確立している薬物療法がカドサイラです。術前に標準的な抗がん剤と抗HER2薬による薬物療法を受けたHER2陽性乳がんで、手術で切除した組織に浸潤性乳がんの残存があった(がんが完全に消える病理学的完全奏効ではなかった)患者を対象に行われた臨床試験があります。術後カドサイラと術後ハーセプチンの治療を比較。7年後に再発せずに過ごしている患者の割合はカドサイラが80・8%、ハーセプチンは67・1%でした。生存率の改善も報告されています。この結果を当てはめれば、ホルモン療法を併用しながらカドサイラを3週ごとに14回(約9カ月)、きちんとやりきるのがいいでしょう」

「ただ、もともとⅠ期なので、術前に薬物療法を行うのではなく、手術を先に行ったうえで、術後に抗がん剤のタキソール(同パクリタキセル)とハーセプチンの2剤併用療法で十分だった可能性があります。そう考えると術前薬物療法はやや過剰な内容で、カドサイラも過剰治療となってしまいます。悩ましいですが、少しでも再発リスクを減らしたいという思いが強ければカドサイラを使う、というのがいいと思います。いずれにしても、それ以上の治療は不要です」

──全摘すれば再発リスクは下がりますか。

「残った乳房に新たにがんが出てくる可能性が少しはあるので、それを防ぐ可能性はありますが、遠隔再発のリスクに影響することはないので全摘をする必要はありません」

──HER2陽性の再発率は高いのですか。

「かつてはたちが悪いといわれていましたが、抗HER2薬が使われるようになってからは再発がかなり減りました」

──話を聞いて気持ちが軽くなりました。

「がんという病気のイメージが患者さんを苦しめているように思います。すでに標準治療以上の治療を受けているので、これ以上何かをしなければと思う必要はありません」

「がん電話相談」(がん研究会、アフラック、産経新聞社の協力)は毎週月~木曜日(祝日・振替休日を除く)午前11時~午後3時に実施しています。電話は03・5531・0110、03・5531・0133。4月29日(昭和の日)は休みます。相談はカウンセラーが無料で受け付けます。内容を医師が検討し、産経紙面やデジタル版に匿名で掲載されることがあります。個人情報は厳守します。

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