大井川鉄道(静岡県島田市)の社長に就いた鳥塚亮氏(64)が、経営の立て直しに動き出した。2022年秋の台風被害から続く不通区間を3年以内に全線復旧する目標を掲げた。千葉県や新潟県の地域鉄道での経験を生かし、満足度の高い「グルメ列車」を走らせたり、子どもたちに人気の「トーマス号」をより快適にしたりするアイデアも明らかにした。(林国広)

 ――6月末の社長就任から間もなく2カ月。大井川鉄道の魅力と弱点をどう考えていますか。

 「沿線の近くに静岡空港があり、東海道新幹線が走っている。富士山もある。地理的な条件に恵まれている。人気アニメにちなんだイベント蒸気機関車(SL)『きかんしゃトーマス号』はオンリーワンだし、お茶の文化やおいしい食べ物があるのも強みだ」

 「弱点は、リソース(経営資源)の乏しさだろう。例えば列車を増発したいと考えても、車両数に限界があるし、人員の問題もある」

 ――千葉県のいすみ鉄道や新潟県のえちごトキめき鉄道での経営再建の実績を、どのように生かしますか。

 「この冬にも、地元の海の幸などを生かした高価格帯の観光グルメ列車を走らせたい。完全予約制にしてロスが出ないようにする。価格は1万5千円から1万6千円程度を想定している。高額だが、景色も良くて、おいしいものを味わってもらって、沿線の印象をよくしたい。おいしければ何度も足を運んでもらえる」

 ――グルメ列車以外ではどうでしょう。

 「トーマス号の客車の冷房化を考えている。昭和20年代につくられた今の客車内には冷房設備がなくて扇風機だけだ。お客さんに保冷剤などを配ってはいるが、車内は暑い。来年の夏までには冷房化を実現したい」

 ――大井川本線の39.5キロのうち、川根温泉笹間渡駅から千頭駅までの19.5キロは2022年9月の台風被害で不通になったままです。

 「大井川鉄道の奥の方に奥大井湖上駅とか長島ダムなどの光り輝くものがある。そこが(不通区間があって)切れている。そういうところにお客さんを連れて行くためにも、直さないといけない」

 ――約22.1億円を見込む復旧費のうち、公的負担を除く8.4億円以上が会社負担だと見積もられています。

 「会社の経営規模からして負担が大きすぎる。どれだけ出せるのか親会社(エクリプス日高)と相談しないといけないが、まずは、この金額を減らしたい。工事に優先順位をつけて施工することで総額を抑えるのも一つの方法だ」

 「行政のことはあれこれ言えないが、観光予算を付けてくれるよう考えてほしい。実現できれば、もう少し会社の負担を減らせるかもしれない。公的な資金を使う価値があるように、地域の広告塔になって地域の価値を上げていきたい」

 ――全線復旧のめどはいつごろですか。

 「発災から5年がめどだ。今から3年以内に全線復旧させたい。それ以上走っていなかったら時代の波に置いていかれてしまう。『なくてもよい』となってしまうと思う。今すぐ着手しても工事に3年かかるとみている。のんびりはしていられない。早く議論を進めてほしいと県にお願いしている」

 ――そもそも、どんな思いで大井川鉄道の社長を引き受けたのですか。

 「少年時代から機関車が好きで、思い出の機関車『C10形8号機』が大事にされていることが、私が社長を引き受けた理由でもある。私の役割は、大井川鉄道という会社を未来につなげること。そのための経営改善や地域との連携に取り組んでいく」

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 とりづか・あきら 1960年東京都板橋区生まれ。明治大卒。大韓航空やブリティッシュ・エアウェイズの従業員として成田空港で旅客運航業務に従事。2009年、千葉県のいすみ鉄道社長に就任。レストラン列車「伊勢海老特急」や夜行列車などの企画で経営改善をはかる。19年に新潟県のえちごトキめき鉄道社長に就き、旧国鉄形急行車両の観光列車を走らせるなどして観光客の呼び込みに成功した。

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