先日、バスツアーに出かけ、車窓に紀の川を見た。それがきっかけだった。この春は作家、有吉佐和子にはまってしまった。
『複合汚染』や『恍惚の人』など著名な本も読んでいなかった私だが若い頃に感動した映画『紀ノ川』を思い出した。急にその原作を読みたくなり、さっそく手に取った。有吉作品を次から次へと読み進むうち見つけたのが書店に平積みになっていた文庫の『青い壺』。昭和52年に刊行された古い小説が令和のベストセラーになっていた。シンプルなタイトルにも惹かれ、読み始めると止まらない。
一人の陶芸家が作った美しい青磁の壺が次々と持ち主を変えてスペインまで、様々な人生に関わっていく13話の連作短編集である。時代は昭和。戦後から高度成長期を経たあの頃の日本が私には懐かしく思い起こされた。
最初の陶芸家と妻の会話の場面からテンポのいい端正な文章に目を奪われる。昭和の壺が、いつのまにか古い時代の唐物に化けていた。
特に第七話に登場する、戦時下の夫婦の思い出が印象深い。空襲が続く東京で外交官だった夫が昔を思いながら妻のためにフランス料理を作るのだ。一級品の食器を使って。老女が語るいとしい思い出をうっとりと読んだ。
『紀ノ川』でも感じたが、有吉文学は日本の忘れてはならない時代への郷愁が美しい日本語や人々の生きざまにあふれている。
そして第九話。70代の女性たちが学生時代の同窓会で京都旅行する話だ。変わってしまったのは姿だけではない。今の自分と重ねてあまりにもピッタリで苦笑した。50代で早世した著者の没後40年に紙のページをワクワクしながらめくる幸せを満喫している。
京都府久御山町 勝田ひさ子(72)
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