交通事故などで頭部が揺さぶられ、脳神経を損傷することで発症する「軽度外傷性脳損傷」(MTBI)。国内では認知度が低く、原因が分からないまま苦しむ患者が多くいる。これまで350人以上のMTBI患者を診察してきた友和クリニック(広島市南区)の宇土博院長は「人生が変わってしまうほどの症状が出るのに、認知されていないのは非常に深刻な問題」として、周知を呼びかけている。【安徳祐】
交通事故など原因 国内推計135万人
2012年、宇土さんは「むち打ちで困っている人がいる」と知人から相談され、30代の女性を診察した。女性は追突事故に遭ってから、味覚や嗅覚などに障害が出ていた。さらに集中力がなくなり、文字や映像、数字などを見ることが難しくなるなどし、仕事を続けられなくなっていた。いずれも脳神経の異常から起きる症状で、単なるむち打ちの症状ではなかった。
この女性を診察したことをきっかけに、宇土さんは海外の論文などを調べた。すると女性の症状はMTBIと呼ばれ、米国などでも大きな問題になっていることが分かった。
MTBIは、微細な脳神経線維の断裂や損傷が原因で発症する。会話が理解しにくい、二つのことが同時にできない、怒りっぽくなるなどさまざまな障害が出ることがある。MRI(磁気共鳴画像化装置)検査やCTスキャンでは見つけられず、「見えない脳損傷」とも呼ばれる。そのため、症状があっても適切な診断につながらないケースが多い。宇土さんは「国内では約135万人の患者がいるとされ、ほとんどが症状に苦しみながらも、病名を知らない」と指摘する。
脳の神経線維の損傷を映すことができる「ファイバー・トラクトグラフィー」(FT)という手法を用いれば診断可能だ。だが、国内ではMTBIの認知度が低いために、十分に活用されていないという問題もある。
宇土さんは今年3月、MTBI問題に取り組む弁護士たちと一緒に、書籍「むち打ちで脳が傷つく~MRIに映らない脳損傷・MTBI~」(文化評論出版社、1540円)を出版し、症状などを詳しく解説した。「MTBIがより社会に知られることで、患者たちへの救済の道は開けるはずだ」と話している。
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