伊東四朗さん


2008年10月21日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

――21歳で劇団活動を始めてから50年。時代とともに笑いは変わってきていますか

伊東 そりゃ変わっていますよ。大先輩のエノケン(榎本健一)さんや古川ロッパさんの笑いも子供のころは本当に面白かったのに、失礼だけど今はそれほどじゃない。笑いには、社会背景が入ってきます。常々、笑いっていうのはドキュメントだと思っているんですが、時間とともに面白さも“さっ引かれちゃう”んですよ。

――「変わらない面白さ」はないのでしょうか

伊東 不滅なのは、無声映画ですね。せりふのない動きだけのものは、いつ見ようが新鮮なんじゃないかな。(せりふがあるものは)言葉の意味が変化しているし、しゃべり方も違ってきているしね。

――例えば?

伊東 「ヤバイ」って言葉は大嫌いなんだけど、最近は悪い意味ではなくて、いい意味でも使うそうですね。(本来)ヤバイは泥棒仲間の符丁。それを女の子がしゃべるなんて違和感があります。喜劇には、なるべく今の変な言葉は入れたくない。若い人に迎合したくないんです。下ネタや人をひっぱたたいたり、身体的な欠陥をあげつらったりも、やりたくないですね。

――子供にも見せられる、幸せな笑いですね

伊東 でも、今のテレビは歯止めがなくなっているからね。アメリカあたりじゃテレビでベッドシーンは規制しているそうですよ。

――コントやギャグ、喜劇の違いがわからない人も増えました

伊東 テレビしか見ていないと、その中の笑いだけになるからね。笑いの違いがわかる人、違いを求める人が舞台を見にくるのだと思います。

――では、いい喜劇とは?

伊東 余計なことはせず、いい台本があれば、それがいい喜劇です。そして、間のとり方がうまいのが、いい喜劇役者。もちろん、いい台本があればそのままでいい。本来、喜劇役者が一番ふざけないんですよ。笑いは邪心が出たとき、だめになります。

(田窪桜子)

伊東四朗

いとう・しろう 昭和12(1937)年、東京都生まれ。劇団活動を経て38年、戸塚睦夫、三波伸介と「てんぷくトリオ」を結成し、お茶の間の人気者に。58年、ドラマ「おしん」に出演後は俳優としても活躍。情報番組「脳内エステIQサプリ」など、司会業も務める。24日から、舞台「学(まなぶ)おじさん」(東京・下北沢の本多劇場)に出演。

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