ともに現役、三浦知良さん(左)とガッチリ握手

《57歳になった今も現役のサッカー選手であり続ける畏友、三浦知良さん。その姿に自分の人生を重ね合わせている》


アイツも分かっているけど、日本のサッカーJ1ではもう、活躍できないわけじゃないですか。僕と同じですよ。ただ、サッカーボールを蹴ることがカズの人生なんですよ。僕が頑張ってステージ上でマイクを持つのと同じです。それをやめたら「三浦知良」ではなくなる。それが一番の怖さじゃないのか、と僕は思っています。

本当はいつ引退してもいいわけじゃないですか。しっかりした地位も確立しているし、〝キング・カズ〟という称号も持っている。

サッカー界でも時代、時代で、天下を取る人が違う。カズのあとは中田英寿、本田圭佑が続いた。でもカズのように継続してずっと、プレーし続けたいという人もいる。選手にはいろんな〝終わり方〟があると思います。プロ野球の長嶋茂雄さんの現役生活は17年。短いですよね。スパーンとやめた。王貞治さんも40歳過ぎまでやったけどバットを置くときは置いた。

サッカー選手の場合は、J1で活躍できるのは35歳までかな。野球選手と比べて少し短い。カズはそこを超越し、57歳の今も、ポルトガルの港町で頑張ってボールを蹴っている。

その町に友達は誰もいないわけですよ。そろそろ金髪の女の子の友達が2、3人できたんでしょうけど。でも朝6時に起きて、あまりおいしくないご飯を栄養バランスのために食べて、練習に行き、帰る、という世界。そしてまた午後、練習に行って…。友達がいないばかりか、町にはネオンもない。カラオケもむろんない。レストランはあるんでしょうけど。変態とも言えるほどのすごさだよね。

試合には出たいみたいですよ。ベンチ入りはするんだって。だけど出ても7、8分。それでもやる。すごいことです。

僕はカズから何となく、刺激のようなものは受けています。彼はまさしく、天下を取った人なので、将来、何になるんだろう、いつまでやるんだろうと思っています。本当に謎。

カズとは毎年、LINEで5、6回やりとりし、「今年もいくぞ」とか、「ハッピー・ニューイヤー」とかやるんです。


《今年も三浦さんの誕生日である2月26日にメッセージを送った》


時計の針が夜中の0時を回ったとき、送りました。「ハッピーバースデー、57歳。まだまだ若いな。オレは63だって。腰が痛いはずやん。いい年になることを念じています」と。そうしたら、5分後にすごい内容の返信が来た。「ありがとうございます。ここからが勝負ですね。頑張ります」。〝ここからが勝負〟とは、スゴい。

僕とアイツの間には、あうんの空間、というのがあるんです。面白いですよ。「トシさん、友達いないっすもんね」って、うれしそうに話すんです。自分の存在をアピールしてくる。かわいいヤツですよ。


《冠婚葬祭が嫌いな田原さん。だが、三浦さんの父が昨秋、他界したとき、何をさておいても葬儀に駆け付け、最大限の友情を示した》


カズのおやじは本当にすてきですよ。僕は年に1、2回、彼の試合に行ってますが、必ず両親がいた。言葉は交わさないけど、あいさつをしていました。カズのおやじの葬儀なら行かなければ、と車で静岡に行きました。着くと終わりかけていた。

カズと2人で祭壇の前に並ぶと、「おやじを見てくださいよ」って言うんです。その顔は化粧をしており、とてもきれい。カズはポルトガルから帰国し、3、4日たって心の準備ができていたんでしょうけど、彼が言う一言がね、「おやじ! トシさん、来てくれたよ」。こう叫んだとき、久々に涙が出てきました。(聞き手 黒沢潤)

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