伊東四朗さん


2008年10月23日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

――若手お笑い芸人がブームで、一人で活動するピン芸人もたくさん出ていますね

伊東 お笑いがブームなんですか。そりゃ知らなかった(苦笑)。今は役者も芸人も私生活をさらしているけど、それは芸にはハンディなんだよね。だけど、世の中のほうがプライベートまで求めてしまう。テレビやラジオは「素(す)」が出てしまうメディアだしね。

――瞬間で消えていく芸人も多い

伊東 これだけ放送局があって毎日、番組作っているから新しい人が欲しいのはわかるけど、その分、いなくなる人も多くなる。しかもネタをやる番組が少なくてトークかクイズ番組がほとんどでしょう。悲しいね。私たちの時代のテレビ界は、まだ混沌としていたけど、みんなに「実力を試してやろう」という気概があって幸せだったかもしれません。

――テレビは難しいですか

伊東 舞台は何が良くて、悪かったかが、目の前のお客さまでわかるし、その場で修正していける。テレビは視聴率しか測るものがないのに、実際には良しあしの指標にはならない。だから、どうやったらいいか迷うんです。すると「媚(こ)び」が生まれて、そんな自分がいやになる。このあたりは、いつも忸怩(じくじ)たるものがありますね。

――自分の笑いを伝承したいと思いますか

伊東 全く考えませんね。私は一座ではなく一人でやってきたし、てんぷくトリオでも、ずっと脇だった。周りがいなくなって、「結局、お前しか残ってないから」ということで、出させてもらっているだけですから、伝承なんて。

――これからは

伊東 来年はまたコントライブをやろうと思っています。ただ、今一番切実な問題はね、「いつまでやれるか」ということなんですよ。同じ年の緒形拳が死んじゃったのが、ショックでね。阿久悠も同い年だったし…。こんなことじゃいけないんだけどさ。

――伊東さんは60歳ぐらいから逆にパワーアップしてますよ

伊東 休んじゃうと、本当に停滞してしまう年齢になっちゃったからね。喜劇俳優はね、「芝居が枯れた」と言われたら、おしまい。この仕事に、慣れは絶対ありません。喜劇は慣れたら負けですから。

(田窪桜子)

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