200年近い歴史を誇る「シャトー・プルカリ」のララ・ネアグラ100%の赤ワイン(酒巻俊介撮影)

東欧にある小さな国、モルドバ。5千年以上のワイン造りの歴史を持ち、世界最古の生産地の一つとされる。今月、日本に「モルドバブドウ・ワイン協会」の支部が誕生した。「元祖自然派」といわれる優しい味わいは、繊細な和食とも相性がいい。遠く離れた日本でも人気が広がりそうだ。

クセがなく和食とも相性抜群

「モルドバワインの魅力を一言でいうと『自然の味わい』。個性豊かで、さまざまなタイプがありますが、クセがなく、フルーティーで料理に合わせやすいのが共通の特長です」

一般社団法人「ワイン・オブ・モルドバ・ジャパン」の代表理事、遠藤エレナさん(32)は大きな瞳を輝かせながら、こう教えてくれた。

モルドバワインの魅力を語る遠藤エレナさん(酒巻俊介撮影)

エレナさんは13年前にモルドバから留学生として来日。日本人男性と結婚し、現在はティーサロン「マルツィショール」の店主も務めている。

東京都墨田区。東京スカイツリーの近くにあるティーサロンには、約100種類をそろえたモルドバワインのアンテナショップが併設されている。おなじみのシャルドネ、メルローなどに交ざって、初めて名を聞く「土着品種」のブドウを使ったものも。特に「ララ・ネアグラ」を使った赤ワインは人気が高いという。

深いルビー色、上品な香りの辛口。やわらかな渋味と酸味の後に、甘く芳醇(ほうじゅん)な味わいの余韻が続く。

「この味をきっかけにモルドバワインのファンになる人が多い。すき焼きなど、甘辛い味の和食にもよく合います」とエレナさん。

近年、飛躍的に品質が向上

モルドバは、国土が九州よりやや狭いが、ワイン造りにおいては「大国」だ。フランスワインの名産地、ブルゴーニュ地方とほぼ同緯度に位置し、なだらかな丘陵地に、肥沃(ひよく)な黒い土壌が広がる。四季があり、昼夜の寒暖差が大きい大陸性気候…。その気候風土がブドウ栽培に適している。

化学肥料や農薬に頼らずに育てられたブドウで造る「自然派ワイン」が近年、世界的なトレンドに。中でも、モルドバ産のワインは「元祖自然派」と注目され、国際コンクールでも高い評価を得ている。

フランスやイタリアよりも古い歴史を持ちながら、あまり知られなかったのは、なぜか-。

かつては旧ソ連の構成国。当時はソ連のワイン消費量の約5分の1がモルドバ産だった。1991年にモルドバが独立、ソ連は崩壊した。やがてモルドバワインはロシアから禁輸措置を受け、〝量から質へ〟の転換が図られたという。「造り手が試行錯誤を重ね、この10年間で飛躍的に品質が向上しました」(エレナさん)

国内にあるワイナリーは大小合わせて200社ほど。国外で知識と技術を学び、伝統に新風を吹き込む若い後継者も増えている。

家庭に貯蔵庫、自家製も盛ん

「ワイン大国」と呼ばれる理由はもう一つ。家庭でも製造が認められ、生活に密着しているからだ。「ほとんどの家にブドウを搾るための器具があり、戸建て住宅の地下にはカーブ(貯蔵庫)があります」

エレナさんも幼い頃から、秋になると仕込む手伝いをしていたとか。日本でいう、みそに似ている?

「そう。モルドバの人々にとってワインは、日本のみそ汁のような存在です」

エレナさんは力を込めてこう続けた。「日本でもモルドバワインが食卓にあって当たり前、となってほしいのです。そのためにも身近に感じてもらう機会をこれから増やしていきたい」

(榊聡美)

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