浅田次郎さん


2009年12月9日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

――ハッピー・リタイアメントをしたくても、経済的事情や定年延長、高齢社会の到来で、日本の「リタイア年」はどんどん高くなっている印象を受けます

浅田 米国と中国を比べると面白いんです。米国は「老い」を否定する国で、基本的に定年はないし、できるだけ働きたい、若く見せたいというモラルの国です。一方中国は、儒教国家ということもあって、老いに対する敬意が強い。老人が周囲からいたわられ、仕事をさせてくれない。日本社会は近年とみに、米国化されすぎている気がしますね。

――日本では「老い」が軽視されていると

浅田 天下りの一つの原因、または高齢労働者の一つの傾向として、まだ自分は働ける、役に立つ、稼げる、といった過信があると思います。そうせざるをえない側面はあると思いますが。しかし、若いうちに身を粉にして働いてお金をためて、年を取ったらぱっぱと使うというのが正しい社会と思いますね。

――「タンス預金」に代表されるように、日本人は貯金好きともいわれます

浅田 今の日本は逆転していて、若い人は割とお金を使っているのに、年寄りが使っていない印象を受けます。星のついているようなレストランへ行くと、若者がとても多い。欧州のそういう店には落ち着いた老夫婦が多くて、文化の成熟というものを感じさせるのですが…。

――日本人の貯蓄癖には、先の見えない世相や老後の不安があるのでは

浅田 最大の問題は住まいの問題でしょうね。60歳を過ぎても家のローンを背負っている人は多い。これはやはり異常事態で、正しい形とは思えません。また、貯金を使い切りたいと思っても、どこが自分の寿命かは分からない。死んだときの葬式代でぴったりゼロ、というのが理想ですが、至難の業ですからね。自分の寿命が分かればいいですが…。

(三品貴志)

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