ワルシャワの人道援助センターで、避難してきたウクライナの子供たちに寄付で集めたおもちゃを届ける中矢匡さん(中央)=2023年2月、ポーランド(中矢匡さん提供)

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、戦火にさらされている現地の子供たちにおもちゃを送る活動をしている男性がいる。世界80カ国・地域を旅した経験を元に講演活動を続ける松山市の元中学教諭、中矢匡(ただし)さん(58)。中矢さんは昨年から、講演先の中学校などでおもちゃの寄付を募り、これまで段ボール69箱分を現地に届けた。今年4月には一般社団法人「地球の上に生きる」を設立。「子供たちの笑顔が忘れられない。戦いが終わるまでおもちゃを届け続けたい」と話す。

必ず分かり合える

中矢さんは松山市出身。日本体育大の大学生だった20歳の時、1カ月間バックパッカーでヨーロッパ各国を巡ったのをきっかけに旅がライフワークに。地元に戻り、公立中学の体育教師になってからも「知らない世界や見たこともない人に出会いたい」と、ほぼ毎年、夏休み期間中に海外に出かけていた。

中学校で講演する中矢匡さん=松山市

言葉が分からないまま現地の人の家に泊まり込み、身ぶり手ぶりだけで1週間過ごしたカザフスタン、生の豚肉を食べて意識不明になったラオス、物乞いをする餓死寸前の子供と出会ったインド…。多種多様な文化とそこで生きる人々との交流を通し「人と人とは必ず分かり合える」と確信した。

38歳で教師を辞めてからも、南米で1年間、各国を巡った。帰国後も中東のパレスチナやイスラエル、イエメンなどを定期的に旅しながら、教員時代にも行ってきた講演活動を本格化。飲食店を経営する傍ら、愛媛県内の小中学校や高校などで旅の経験を踏まえて感じた命の大切さや国際理解、人権などをテーマに500回以上講演している。

子供たちのサンタクロースに

ウクライナへの支援のきっかけは昨年1月。政府の渡航規制などで現地に行けず、「平和や国際理解の重要性を訴えているのに、具体的な行動ができない」ともどかしさを感じていた。そんななか、知人を通しウクライナへ支援物資を届ける活動をしているポーランド在住の男性とSNSで知り合った。

日本からのおもちゃが現地の孤児院施設に届けられた=ウクライナ北部のスームィ州(中矢匡さん提供)

「日本から何かできないか」。そう相談を持ち掛けると、おもちゃがほしいと頼まれた。「自分にできることがあるのが何よりうれしかった」と中矢さん。できる限りのおもちゃをかき集め、持っていこうと決めた。

さっそくポーランド行きの航空券を手配。出発までの2週間、小中学校での講演で「ウクライナにおもちゃを届けたい」と訴えた。すると、児童生徒からは寄付したいという声が次々と上がり、12の小中学校から段ボール28個分のおもちゃが集まった。

2月中旬にポーランドに入り、首都・ワルシャワにある避難民の受け入れ施設「人道援助センター」を訪問。警備が厳重で初めは入れなかったが、おもちゃを透明な袋に入れ「子供たちに届けにきた」と伝えると、子供たちとの面会が許された。

ぬいぐるみやミニカー、フィギュアなどを手渡すと、子供たちは笑顔を浮かべ、宝物のようにおもちゃを抱きしめ離さなかった。「身寄りもなく不安な日々を過ごす子供たちのサンタクロースになれた気がした」と中矢さん。「紛争が終わるまで活動を続ける」と心に決めた。

持続可能な支援の輪を

帰国後、活動は話題を呼び、1年間で約80回もの講演をこなした。行く先々で「おもちゃを寄付したい」との申し出を受け、その都度ポーランドの知人男性を通して現地の子供たちに届けた。

日本から送られたおもちゃは、現地の協力者がウクライナに持ち込み子供らに届けるという=ウクライナ北部のスームィ州(中矢匡さん提供)

ただ、1箱1万円以上かかる輸送料は私費で賄っている上、税関で荷物が止められた場合は追加で数万円必要で、現地スタッフが半日がかりで引き取りに行く必要もある。

「活動をさらに広げ、持続可能な形でウクライナ支援の輪を広げたい」。そう考え、活動の受け皿として今年4月に一般社団法人「地球の上に生きる」を設立、代表幹事に就任した。今後は少しずつ依頼が増えてきた県外の学校や企業・団体での講演をさらに拡大していくほか、各種団体からの寄付受け付けやクラウドファンディングの実施なども計画している。

中矢さんは「ウクライナへの支援を続けるとともに、これからも国際理解や命の大切さを伝え続けたい」と話している。(前川康二)

講演依頼や寄付に関する問い合わせはメール(tadashi-keiko@nifty.com)。

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